死因の解明や凶器の特定といった殺人事件の解決に重要な役割を果たす司法解剖について、警察庁は16日、担当の嘱託医に支払っている1体当たり7万円の謝金を、解剖経費も含め16万円程度にまで倍増する方針を固めた。司法解剖は大学の法医学教室が行っているが、国立大の法人化や私立大への助成見直しなどの影響で、教室の財政は逼迫し司法解剖システムの破綻を招きかねない状況だ。警察庁が財政面からサポートに乗り出す。
警察庁によると、平成16年中に全国で行われた司法解剖(交通関係を除く)の件数は4969件。3年前の13年(4407件)と比べて約1.13倍と増加傾向を見せている。
司法解剖を嘱託された法医師に対しては現在、警察法や警察法施行令などに基づき、謝金として1体につき7万円の「鑑定書作成料」が国費から支払われている。
平成に入ってからの謝金は、元年度の34,000円以降、3,000-5,000円の幅で計8回にわたって段階的に引き上げられ、14年度から現在の7万円となっている。
これに対し、国立大の法人化や私立大への助成金見直しなどで、大学は経営の合理化を迫られている上、法医学教室の予算も削減されるなど、“お寒い台所事情”となっている。日本法医学学会(勝又義直理事長)では「7万円の謝金だけでは、司法解剖が成り立たなくなってしまう」と訴える。
司法解剖の経費は検査項目の種類によって異なるが、日本病理学会では病理解剖について1体約25万円と試算。司法解剖も20万円から30万円程度の経費がかかるとされており、「足りない分は研究費から支出している」(日本法医学会)のが現状だ。
さらに、日本法医学会によると、司法解剖に携わる法医師は、現在全国で約150人だが定員も削減傾向にある。
このため、警察庁と日本法医学会は昨年6月、司法解剖の抱える問題について協議を開始。法医学会側は(1)国立大学の法人化に伴う人員削減や後継者の激減といった体制面 (2)鑑定料の見直しの必要性や講座予算の削減といった財政面−の2点を中心に、法医学教室の抱える窮状を訴えてきたほか、今年3月には警察庁の漆間巌長官あてに「司法解剖経費の在り方についての提言」を提出していた。
警察庁はこうした状況を踏まえ、司法解剖のシステムそのものが破綻すると、殺人事件の捜査などに影響が出ると判断し、財政面で下支えすることとした。
謝金の額については、検査に必要な経費も加えて現行の7万円から2倍以上となる16万円にまで増額することにした。
金額の詳細については今後、財務当局と詰めていくが、18年度予算の概算要求で約5,000件の謝金として、約7億9,300万円を盛り込んだ。
東京都監察医務医院長で日本法医学会理事の福永龍繁氏は、「鑑定のレベルを維持するためにも、解剖にかかった経費については全額を請求できるように、今後とも警察庁に働きかけていきたい」としている。