<2008年5月28日(水)に放送した交通死亡事件『下川事件(熊本)』(テレビ朝日 「スーパーモーニング」)が、国会・法務委員会(2008年5月30日)で取り上げられ、 「実況見分調書早期開示」の問題について細川律夫衆議院議員(民主党)が質問を行いました。刑事訴訟法47条の解釈をめぐって大臣が興味深い答弁を行っています。会議録(抜粋)を紹介します。>
●VTRは、2008年7月23日放送「スーパーモーニング」(テレビ朝日)から抜粋した ものです。
○細川委員 被害者、遺族は、早く本当の事実を知りたい、これは少年事件だけではないと思いますから、ぜひしっかりやっていただきたいというふうに思います。
そこで、被害者の立場から、交通事故におきます調書の開示ということについてお伺いをしていきたいと思います。
この少年法の改正案で、傍聴の対象となりますのは、多分、件数としては業務上過失致死傷罪等が圧倒的に多いだろう。現在、多くは、刑法の二百十一条第二項の自動車運転過失致死傷罪ということになるだろうと思います。いわゆる交通事故による死亡または生命重大危険の事案、これが多かろうというふうに思います。
そこで、私は、交通事故においては、せめて実況見分調書くらいは捜査をやっている捜査中でも遺族や被害者に開示すべきだ、こういうふうにこれまでも主張してきましたけれども、どうも刑事訴訟法四十七条が壁になりまして、今までは法務省からなかなかいい答えがもらえていなかったわけでございます。
私は、超党派の交通事故問題を考える国会議員の会というのがありまして、そこの事務局長もやったりしておりまして、そういう交通事故の被害者からいろいろな要望も聞きます。
調書は、判決確定後は開示されますけれども、起訴されるまでは非開示でございますし、不起訴の場合には、特に供述調書なんかはなかなか開示されない、こういうことであります。特に、警察や検察の捜査に不満がある場合ですと、不起訴になって初めて実況見分調書などの内容がわかって驚いたといった例が相次いでおるわけであります。
交通事故の場合は、どちらが被害者かわからないような場合が専ら多いわけでありまして、特に一方が死亡したような場合には、生存者の方が供述すること、それがそのまま採用されるということもいまだにあるようでございまして、私は、この点が非常に気になっているところでございます。
そこで、少年法はちょっと離れるんですけれども、一昨日もテレビのニュース番組で報道されておりました。ちょっと御紹介しますと、事故はかなり前でありますけれども、平成十年の十一月に熊本県で起こっております。亡くなったのは、東京から単身でバイクの旅行をしていた男性でございまして、警察の調べでは、停車中の乗用車にバイクが追突をしたということでございますけれども、遺族がその実況見分調書を見たのは、乗用車の運転手の不起訴が決まった後だということです。そこで、その後、遺族は自分で調査を始めまして、警察の調べとは逆に、走行中の乗用車がバイクの前方に切り込んできた、だから乗用車にバイクが衝突した、そういう鑑定結果も出たりいたしました。しかし、そういう鑑定結果が出ても、遺族の主張は退けられるというような結果、結局乗用車の運転手は責任はないということになっております。
しかし、この事件は現在も係争中でありますから、私はこの事実関係に入って余りどうこう言いたくはないんですけれども、一方は東京からバイクでずっと運転をしていった青年、一方、相手方は地元の女性、そして、その女性は警察官と結婚をしているとか、そういうようないろいろな背景もありまして、この警察の調べには疑問がある、そういうこともあるようでございます。
そこで、長々と言いましたけれども、私が言いたいのは、被害者等が捜査に関する情報を得ようとしても捜査段階ではなかなか出してもらえない、こういう実情でありますから、仮に警察の捜査に問題があった場合、全くチェックが働かないということもこれまた私は問題だと思いまして、四月十一日の当委員会での私の質問でも、大臣は「検察がしっかりしておれば適正な捜査ができるのではないかというふうに私は思います。」というようなお答えもいただいておりまして、私がいろいろ交通事故の遺族の皆さんから要請を受けた件では、検察がしっかり機能を果たしているかといいますと、そうでもないというふうに思います。
そこで、志布志や氷見の事件、あの冤罪事件を例に出すまでもないんですけれども、むしろほとんど検察は警察の捜査を追認しているというふうにしか思えない。警察の捜査に問題があった場合ではなくて、捜査が適正に行われる場合も含めて、被害者や遺族はできるだけ真実を知りたい、こういう気持ちであろうと思いますから、それを生かそうとするのが犯罪被害者等基本法の趣旨だというふうに私は思っております。
そこで、少年法のこの改正案、傍聴が認められる事件というのは、そういう交通事故、業過の事件が大半を占めるだろう、こういうふうに思われますので、捜査段階であっても、せめてその交通事故の実況見分調書くらいは被害者に開示すべきだというふうに私は考えます。一般に公開をしろというのではなくて、被害者の気持ちにこたえる意味で、捜査に支障を来さない範囲で開示すべきではないか、これについて法務当局のお考えを聞かせてください。
○大野政府参考人 ただいま委員が御指摘になりました刑事訴訟法四十七条というのがありまして、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」ということで、原則として捜査段階の書類は捜査段階においては公にしないということになるわけでありますが、これはもちろんプライバシー保護あるいは円滑な捜査遂行の必要性を踏まえた規定でございます。 ただ、この四十七条にはただし書きがくっついておりまして、「公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。」とされております。 そうした観点で、犯罪被害者等基本計画の中でも、検察官が捜査への支障等を勘案しつつ、犯罪被害者等に対し、適時適切に捜査状況等の情報を提供するよう努めることという条項も入っているわけでございます。 そこで、現在、検察当局は、捜査段階でありましても、犯罪被害者等の方々から要望がある場合には、可能な範囲で、捜査への支障等を勘案しながら捜査状況等について説明をしております。 そして、今委員が特に御指摘になりました実況見分調書でありますけれども、実況見分調書につきましては、いわば客観性の高い証拠ということになるわけでありますが、被害者に対する説明の際に、必要に応じて実況見分調書をお示しする場合もあるというように承知しております。
○細川委員 被害者に説明する場合に、実況見分調書も示す場合もあるということでありますけれども、しかし現実は、私が聞いた限りでは、まず見せてもらえないというふうに聞いております。 刑事訴訟法四十七条の後半では、「但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。」こういう規定がちゃんとありますので、実況見分調書というのは本当に客観的な証拠でありますから、特に、それを被害者が見ても捜査の妨害になるとかそういうようなことは一切ない、被害者が真実を知りたい、こういうときには、やはり実況見分調書を見せるということが大事ではないかというふうに私は思いますけれども、ちょっと大臣のお考えを聞かせてください。
○鳩山国務大臣 この少年法の改正案が、少年により重大な事件が起きて、最愛の御家族を失うというようなケースを想定して、そうした遺族の方々の、知りたい、どういう少年なんだろうか、少年審判でどんなやりとりをしているんだろうか、あるいは身上、経歴等もどんなふうであろうか、そういう切実な思いにこたえるような立法をしよう、それが犯罪被害者等基本法や基本計画に沿ったものである、そう考えているわけでございます。 そのことを踏まえて、今の細川先生のお話を承りますと、先生御指摘の熊本県で発生した交通事故、今から十年前なんでしょうか、それは交通事故ですから、どっちに過失があったとかいろいろ難しい問題は出てくるわけでありましょうが、そのオートバイに乗った青年は亡くなってしまうわけですね。その遺族の皆様方の御心痛、察するに余りあるものがございまして、先生が切々とお話をされましたように、結局不起訴になっておって、後から実況見分調書を見る。これは、余りにも、余りにもという気がします、私の率直な思いは。 したがって、少なくとも先生が御指摘のようなケースでは、刑事訴訟法四十七条というのは、その読み方は、ただし書きを極めて重く、あるいは幅広く読みほどくべきでありまして、実況見分調書を遺族の方に、それこそこのような例であるならば、お見せするのが原則であってしかるべき、こう思います。
○細川委員 ありがとうございました。