最近の動向

○神崎委員(公明党)
   次に、変死体の解剖問題についてお伺いをいたします。
  二〇〇〇年八月に茨城県で起きました保険金殺人事件では、ウオツカなど強い酒を飲まされて殺されたとされる男性が、行き倒れの形で解剖されないまま病死と判断されて、被告人の一人が上申書で事件を告白するまで事件が表に発覚しなかった、こういうことがありました。
  また、読売新聞の調査によりますと、警察が一たん病死などと判断したものの、遺体の火葬後に他殺と判明したケースが過去十年間に少なくとも十三件あった、一方、検視で事件性なしと判断された変死体についても、行政解剖で死因を調べる監察医制度の充実した東京、大阪、神戸では、検視ミスによる殺人の見過ごしがこの十年間で十九件あったことが判明したという報道もされているところでございます。
  二〇〇五年に扱った変死体十三万四千九百五遺体のうち、司法解剖は四千九百四十二体、行政・承諾解剖は八千六百二十八体で総解剖数は一万三千五百七十体、解剖率は九%と言われております。欧米では、これも十分な資料があるわけではありませんけれども、解剖率が高い、イギリスでは六〇%ぐらいあるんじゃないか、あるいは米国では五〇%ぐらいあるんじゃないか、こういうことも言われているところでございます。
  まず、我が国の解剖率が低い原因をどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか、警察庁と厚生労働省にお伺いをいたします。

○縄田政府参考人(警察庁) 
お答え申し上げます。
  警察におきましては、委員御指摘になられましたけれども、犯罪をまさに見逃すことのないように、取り扱う死体につきましては、個別の事案ごとに、死体の状況、現場の状況、関係者の供述あるいは検案医の意見等も聞きながら慎重に検討いたしまして、犯罪性に多少なりとも疑いが残る場合には、これは法医学の教授に委託する場合が圧倒的に多いんですけれども、こういった先生方に対しまして鑑定嘱託をいたしまして、裁判官の発する鑑定処分許可状、これも疎明資料を沿えてお願いするわけですけれども、それで司法解剖を行っております。
  少しでも疑いのあるケースについては、これは解剖に付していくということで努めておるところでありますけれども、そういった一つの司法手続の流れの中で司法解剖が行われておるわけでございまして、解剖率がどうであるかといいますか、そういう評価をするのはなかなか難しいのではないかなというふうに理解をいたしております。
  いずれにしても、私どもとしては、何度も繰り返しますけれども、いささかも見逃さないようにということで、懸念のあるものについては司法解剖をする、さらに、そのような判断をしても司法解剖に付すことができないような死体につきましても、死因究明のために、慎重を期すために、必要があれば、死体解剖保存法に基づく行政解剖を行うということで、犯罪を見逃さないということで一線を指導しておるところでございます。

○白石政府参考人(厚生労働省)
 厚生労働省、行政あるいは承諾解剖の関係でございますけれども、関係者の間でよく指摘がありますのは、やはり御遺体を大切に扱う国民性というものがあって、概して御遺族の方から解剖の承諾をいただくというのが難しい傾向があるということが一つ、それから医療機関あるいは医療保険制度がありますので、生前の臨床経過を把握することでいろいろな死因を特定することができる場合が多い、こういったことが解剖、特に私どもの所管でいえば行政解剖、承諾解剖でございますが、そういった解剖が実施されていない要因だというふうに考えております。

○神崎委員
 専門家は、解剖率が低いと死因の判断ミスがふえ、犯罪が見逃される、伝染病などが見逃され、公衆衛生上の危険がある、死に至るメカニズムが解明されず、ガス器具による中毒事故の多発などが気づかれない、さまざまな問題があるということを指摘しているところであります。
  我が国として、こういった犯罪とか伝染病などの見逃しを防ぐために今後どのような取り組みをしていくのか、警察、厚生労働省にお伺いしたい。また、あわせて法務大臣の所感もお伺いしたいと思います。

○縄田政府参考人
  先ほども申し上げましたが、犯罪性に多少なりとも疑いが残る場合、これは積極的に司法解剖に持っていくということで指導をいたしております。
  この件につきましては、警察大学校におきまして二カ月以上の大学の教授等の研修も行い、また、司法解剖の実習等も一カ月以上にわたって行っております。
  この結果、十八年中に警察が取り扱った死体総数は十四万九千二百三十九、これは年々ふえております。このうち、変死体としていわゆる検視を行ったものが一万二千七百四十、このうち約四〇%に当たるものにつきまして司法解剖をいたしております。
  私どもといたしましては、さらに見逃さないようにということで、検視の際に外表からはなかなか判断できないようなこともございまして、CT検査あるいは薬物検査、こういったことで特定をいたしております。今年度からこれは予算化を一部いたしたところでございます。そういったことがあります。
  先ほども申し上げましたけれども、これは厚生労働省所管にもなりますけれども、私どもの立場といたしましても、死因の解明につきましては、行政解剖をできるだけお願いするということで対応してまいりたい、こういうふうに考えております。

○白石政府参考人
  お答えいたします。
  死因の特定というために、おっしゃられますように、監察医の行政解剖をふやすということも必要だというふうに考えております。また、それにあわせまして、先ほど申し上げましたような我が国の国民性等を考えますと、解剖しないでも検案能力が向上するということも必要でございますので、そういった観点から、死体検案の講習会を一昨年度から実施しております。そういったことを通じまして、また一般臨床医の検案能力の向上ということもあわせてやっていきたいと考えております。

○長勢国務大臣
  御指摘のように、検視や司法解剖が十分機能しないということで犯罪が見逃されるというようなことがあってはならないということは当然のことだと思います。
  今、警察また厚生労働省から御説明がありましたけれども、率がどうというだけの問題でもなかろうと思いますし、当然、犯罪の疑いのあるものは厳正な措置を講じて見過ごすことのないように適正に実施をしていかなきゃならない、その努力はされていると思いますが、同時にまた、社会のつながりだとか、あるいは医療の体制のあり方とか、いろいろなことも関連をしていると思いますので、もし今後検討すべき点があれば、十分連携をとって検討していきたいと思います。

○神崎委員 終わります。どうもありがとうございました。

© 柳原 三佳