最近の動向

―非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法案―

 (目的)
第一条
 この法律は、非自然死体(死亡前に医師により診断された疾病(負傷に起因する疾病を除く。)のみにより死亡した者の死体以外の死体(医療の提供に関連して死亡した者として厚生労働省令で定める要件に該当するものの死体(第十一条において「医療提供関連死体」という。)を除く。)をいう。以下同じ。)の死因等(死亡の原因、推定年月日時及び場所、犯罪の嫌疑の有無その他国家公安委員会規則で定める事項をいう。以下同じ。)の究明に関し必要な手続及び方法を定めることにより、非自然死体の死因等の究明が公衆衛生の向上に配慮しつつ適正に行われることを確保し、もって死者及びその遺族等の権利利益の擁護並びに公共の安全と秩序の維持に資することを目的とする。
(死因究明調査)
第二条
 警察署長は、非自然死体を発見し、又は非自然死体がある旨の通報を受けたときは、速やかに、所属の警察官に当該非自然死体の死因等の究明のための調査(以下「死因究明調査」という。)を行わせるものとする。この場合において、警察署長は、速やかに、警視総監又は道府県警察本部長(以下「警察本部長」という。)に対し、その旨を報告するとともに、都道府県警察の内部組織として置かれる部局で非自然死体の死因等の究明に関する事務を所掌するものの警察職員であって非自然死体の死因等の究明に関し専門的知識を有するもの(以下「死因調査専門職員」という。)の派遣を要請するものとする。
2 警察本部長は、前項後段の規定による要請を受けたときは、所属の死因調査専門職員を派遣しなければならない。
3 前項の規定により派遣された死因調査専門職員は、第一項の規定により死因究明調査を行う警察官に対し、当該死因究明調査が適切に行われるよう、必要な情報の提供、指導及び助言を行うものとする。

第三条
 警察官は、死因究明調査を行うため必要があると認めるときは、非自然死体を検査し、非自然死体の発見者その他の関係者(以下「関係者」という。)に対して質問し、若しくは照会して必要な事項の報告を求め、又は関係者が任意に提出した物件その他非自然死体の死因等の究明に必要な物件を検査することができる。

第四条
 警察署長は、死因究明調査において非自然死体が犯罪に起因し、又はその疑いがあると認められる場合以外の場合であって、死因究明調査を行うため必要があると認めるときは、当該非自然死体を解剖することができる。
2 警察署長は、前項の規定による解剖を行おうとする場合において、遺族があるときは、遺族に対し解剖が必要である理由を説明しなければならない。ただし、遺族の所在が不明であり、又は遺族が遠隔の地に居住する等の理由により遺族への説明を終えてから解剖するのではその目的がほとんど達せられないことが明らかであるときは、この限りでない。
3 警察署長は、第一項の規定による解剖を行った場合において、非自然死体が犯罪に起因し、又はその疑いがあると認められるときは、直ちに、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百二十五条第一項の規定による解剖が行われるよう必要な措置を講ずるものとする。

第五条
 警察署長は、法医科学研究所その他の機関又は法医学に関する専門的な知識及び経験を有する医師に対し、死因究明調査のうち法医学に関する専門的知識及び技術を必要とするものを嘱託し、その意見を聴くことができる。

第六条
 死因究明調査において非自然死体が犯罪に起因し、又はその疑いがあると認められる場合の当該非自然死体の検証等の実施については、刑事訴訟法の定めるところによる。
(死因究明調査終了後の警察本部長への報告)

第七条
 警察署長は、死因究明調査が終了したときは、遅滞なく、警察本部長にその結果について報告するものとする。
(関係行政機関への通知)

第八条
 警察署長は、死因究明調査において、非自然死体が感染症若しくは中毒に起因し、又はその疑いがあると認められる場合その他必要があると認める場合は、当該死因究明調査の経過又は結果を関係行政機関に通知するものとする。
(遺族等への配慮)

第九条
 死因究明調査に携わる警察官及び死因調査専門職員は、遺族等の心身の状況、その置かれている環境等について適切な配慮をしなければならない。
(遺族等への結果の説明及び非自然死体の引渡し)

第十条
 警察署長は、死因究明調査が終了した後、非自然死体の身元が明らかであるときは、その死因等について遺族等に説明するとともに、着衣、所持品等とともに当該非自然死体を速やかに遺族等に引き渡さなければならない。
(医療提供関連死体の死亡の原因等の究明)

第十一条
 医療提供関連死体の死亡の原因等の究明については、別に法律で定める。
(命令への委任)

第十二条
 この法律に定めるもののほか、この法律を実施するため必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。


附 則
(施行期日)
第一条
 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(刑事訴訟法の一部改正)
第二条
 刑事訴訟法の一部を次のように改正する。
第二百二十九条を次のように改める。
第二百二十九条 削除
(刑事訴訟法の一部改正に伴う経過措置)
第三条
 この法律の施行の際前条の規定による改正前の刑事訴訟法第二百二十九条第一項の規定により検視に着手している場合における当該検視については、なお従前の例による。
(刑法の一部改正)
第四条
 刑法(明治四十年法律第四十五号)の一部を次のように改正する。
第百九十二条の見出しを「(非自然死体密葬)」に改め、同条中「検視」を「非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律(平成十九年法律第   号)第二条第一項に規定する死因究明調査」に、「変死者」を「同法第一条に規定する非自然死体」に改める。
(戸籍法の一部改正)
第五条
 戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の一部を次のように改正する。
第九十二条第一項中「明かで」を「明らかで」に、「検視調書」を「死因究明調書」に、「添附して」を「添付して」に改める。
(軽犯罪法の一部改正)
第六条
 軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)の一部を次のように改正する。
第一条第十九号中「変死体」を「非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律(平成十九年法律第   号)第一条に規定する非自然死体」に改める。
(臓器の移植に関する法律の一部改正)
第七条
 臓器の移植に関する法律(平成九年法律第百四号)の一部を次のように改正する。
第七条中「刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二百二十九条第一項の検視その他の」を「非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律(平成十九年法律第   号)第二条第一項に規定する死因究明調査(以下「死因究明調査」という。)又は」に改め、「ときは、」の下に「当該死因究明調査又は」を加える。
附則第二条第三項中「刑事訴訟法第二百二十九条第一項の検視その他の」を「死因究明調査又は」に、「第六条の」を「同条の」に改め、「図り、」の下に「死因究明調査又は」を加える。
(財務省設置法の一部改正)
第八条
 財務省設置法(平成十一年法律第九十五号)の一部を次のように改正する。
第二十七条第二項中「、検証及び検視」を「及び検証」に改める。
(死体解剖保存法の一部改正)
第九条
 死体解剖保存法(昭和二十四年法律第二百四号)の一部を次のように改正する。
第二条第一項第三号を次のように改める。
三 削除
第二条第一項に次の一号を加える。
七 非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律(平成十九年法律第   号)第四条第一項の規定により解剖する場合
第七条第三号中「第二条第一項第三号又は第四号」を「第二条第一項第四号」に改め、同条に次の一号を加える。
六 非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律第四条第一項の規定により解剖する場合
第八条を次のように改める。
第八条 削除
(死体解剖保存法の一部改正に伴う経過措置)
第十条
 この法律の施行の際前条の規定による改正前の死体解剖保存法第八条第一項の規定により検案又は解剖に着手している場合における当該検案又は解剖については、なお従前の例による。
(警察法の一部改正)
第十一条
 警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)の一部を次のように改正する。
第二条第一項中「逮捕」の下に「、非自然死体(非自然死体の死因等の究明の適正な実施に関する法律(平成十九年法律第   号)第一条に規定する非自然死体をいう。以下同じ。)の死因等(同条に規定する死因等をいう。以下同じ。)の究明」を加え、「取締」を「取締り」に、「当る」を「当たる」に改める。
第五条第二項第六号の次に次の一号を加える。
六の二 非自然死体の死因等の究明に関すること。
第十九条第一項中「五局」を「六局」に、「刑事局」を「非自然死体死因究明局」に改める。
第二十三条の二を第二十三条の三とし、第二十三条の次に次の一条を加える。
(非自然死体死因究明局の所掌事務)
第二十三条の二 非自然死体死因究明局においては、警察庁の所掌事務に関し、非自然死体の死因等の究明に関する事務をつかさどる。
(罰則に関する経過措置)
第十二条
 この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

理 由
非自然死体の死因等の究明が公衆衛生の向上に配慮しつつ適正に行われることを確保し、もって死者及びその遺族等の権利利益の擁護並びに公共の安全と秩序の維持に資するため、非自然死体の死因等の究明に関し必要な手続及び方法を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、平年度約六億円の見込みである。

© 柳原 三佳