〜 週刊朝日(2000.4.28)ダイジェスト版 〜
 98年7月に自動車保険が完全自由化されて以降、保険料の大幅値下げやサービス合戦が激化し ているが、その裏で、損保会社によって過失割合の操作などによる「払い渋り」が行われている。 何も知らない被害者は、損保会社に言われるまま、泣き寝入りするしかないのが実態だ。
加害者提示額0円は、損保会社が支払い義務なしとして争った事例である。
■傷害事故
解決日 争点 加・提示額 解決額 UP率 解決法
98-04-23 確定申告をしていないスナック経営者の休業損害 2,415,174円 3,799,197円 56.4% 示談
99-12-21 女性の醜状痕による逸失利益は慰謝料で斟酌 15,520,994円 25,000,000円 61.1% 裁判
97-04-11 保険会社基準と日弁連基準の差 1,490,500円 2,500,000円 67.7% 示談
99-11-30 神経障害が後遺障害非該当とされた 42,270円 500,000円 118.2% 示談
00-01-28 将来の治療費 50,389,445円 100,000,000円 198.4% 示談
93-04-06 会社経営者の休業損害につき農業収入を加えることの可否 1,890,770円 4,100,000円 216.8% 示談
00-01-28 将来の自宅改造費 31,474,238円 70,352,591円 223.5% 示談
96-02-16 入社試験を受験できなかったことによる慰謝料請求の可否 1,524,138円 3,500,000円 229.6% 示談
95-01-25 過失相殺 6,432,983円 31,994,203円 497.3% 裁判
92-01-09 事故と治療期間の因果関係 927,000円 4,675,000円 504.3% 裁判
96-12-13 保険外交員の休業損害 1,411,200円 8,000,000円 566.8% 裁判
99-01-26 過失相殺 17,158,331円 130,000,000円 757.6% 裁判
00-01-24 非該当の後遺障害を慰謝料で考慮 59,295円 540,000円 910.7% 示談
98-07-21 過失相殺(赤信号無視の横断か否か) 0円 3,300,000円 ―% 裁判
93-09-27 傷病と事故との因果関係 0円 4,342,483円 ―% 裁判
99-04-16 後遺障害と事故との因果関係 0円 7,516,440円 ―% 裁判
92-06-26 傷害と事故との因果関係 0円 14,449,677円 ―% 裁判
99-07-21 後遺障害と事故との因果関係 0円 22,000,000円 ―% 裁判
92-06-30 告知義務違反 0円 34,200,000円 ―% 裁判
98-04-13 過失相殺 0円 40,422,391円 ―% 裁判
■死亡事故
解決日 争点 加・提示額 解決額 UP率 解決法
98-11-27 医師の逸失利益 133,840,294円 210,000,000円 56.9% 示談
96-01-24 過失相殺(交差店内の事故) 27,539,560円 50,585,646円 83.6% 裁判
90-08-28 過失相殺(路上座り込み) 20,063,674円 42,000,000円 209.3% 裁判
89-04-26 逸失利益・退職金等の計算方法 7,318,987円 30,017,370円 410.1% 裁判
98-02-09 過失相殺(対向車線はみだしの有無) 0円 20,000,000円 ―% 裁判
98-11-27 過失相殺(対向車線はみだしの有無) 0円 40,422,391円 ―% 裁判

 「僕はよく損保会社にこう言うんです。あなた方は暴利集団と言われても仕方ありませんよと。これでは素人である被害者をだましているのと同じことです。」と指摘するのは、交通事故・事件を数多く手がける、札幌の村松弘康弁護士だ。表は村松弁護士が平成以降に扱った交通事故示談における損保会社の初回提示額と、裁判等によって決着した最終解決額の比較である。これを見ると、損保会社が初めに提示した示談額がいかに低いかがわかる。

 村松弁護士は「この表は、初回提示額と解決額の差が50%以上の事例の一部をまとめたものにすぎませんが、弁護士が代理人になったとたんに被害者の損害額が2倍になったり、ひどいものになると9倍になったりしている・・・・。そんなばかなことがあっていいのか。特に最近の損保会社は、いかにして会社の損害率を減らすか、被害者を切り捨てるか、というやり方をしているような気がしてなりません。」と述べている。

 損保会社社員として、また運送会社の事故係として、長年、人身事故の示談を行ってきた「示談交渉人裏ファイル」の著者、浦野道行氏はこう明かす。

「われわれの業界は、初めにノーありき。会社の損害率を下げるために、とりあえず低い金額を提示して相手の反応を見るというのは常套手段です。だいたい過失割合なんていい加減なもの。「損害賠償額算定基準」というマニュアルはありますが、下請けのリサーチ会社に調査を依頼すれば、われわれに都合のいい結果がいくらでも引き出せます。たとえば1億の損害がある被害者の過失を1割増やせば、それだけで損保会社は1千万円の支払いを浮かすことができるんです。」

 日弁連交通事故相談センター本部専任副会長の高橋勝徳弁護士も「厳しい過失割合のほか、休業損害・逸失利益・慰謝料など個々の損害費目を下げるやり方も目立ちます。」と指摘する。

一方、国内損保35社が加盟する日本損害保険協会は、こう回答した。
「現実に被害者の方から感謝いただいている例もたくさんあり、格差が生じている事案がこんなにあるとはにわかには信じがたい。個々の事案にはタッチできないので具体的なコメントは控えるが、損保会社は厳密な調査をし、適正な保険金をお支払いするという姿勢で業務を行っている。」

 保険料が安くなっても、肝心の保険金を払い渋って穴埋めをするなら本末転倒だ。自動車保険自由化から2年目、損保業界の「社会正義」が問われ始めている。

© 柳原 三佳