― 「調書」が見たいという人のために・・・・・ ―

 刑事確定記録は、1回につき150円の手数料を払えば閲覧できます。週刊朝日の記事を紹介しますので、参考にしてください。
交通事故の被害者や遺族の大半は、「事故の真実を知りたい」と切望しているが、実際には被疑者の刑事処分が決まるまで調書類の閲覧すら許されておらず、多くの人が歯がゆい思いをしているのが現状だ。また、調書が早期に開示されないため、事実がねじ曲がったまま処理され、自賠責や任意保険の支払いに影響を及ぼしてしまうケースも少なくない。
私のもとには、交通事故の当事者から二次的被害とも言えるつらい体験を綴った手紙や、さまざまな問題提起が寄せられている。

たとえば、
「調書は非公開といいながら、保険会社や自算会は警察との人脈を利用して、かなり早い時期に見ているようだ」
「息子の事故の場合、加害者が不起訴になっており、現場見取り図しか見ることができなかった。どうすればよいのでしょうか」
「刑事裁判が終わってようやく調書を閲覧できたものの、今度はコピーさせてもらえずとても苦労している」
「交通事故の相談に行ったが、調書が見られることなど教えてもらえなかった。できれば検察庁での閲覧手続きを詳しく紹介してほしい」
 では、「調書の閲覧」とは、どのような法律にもとづいて、どんな手続きを踏んで行われているのだろうか。

 98年3月に行われた国会の予算委員会では、衆議院の山本孝史代議士が、交通事故の実況見分調書開示がスムーズに行われるよう要望し、開示の現状について関係省庁に質問を行った。それを受けた法務省刑事課長は、次のように答えている。

「警察で作成された実況見分調書は、通常は事件送致ととともに検察庁に送られます。その後の開示については、いくつかの段階があります。まず、捜査中の記録ですが、これは刑事事件における関係者の名誉、人権の保護、捜査、公判に対する不当な影響の防止というような観点から、非公開が原則とされています。起訴後に判決が確定した場合の記録については、法律に基づいて検察庁が保管しており、原則として何人に対しても閲覧が認められています。
不起訴になった事件の記録については非公開が原則ですが、交通事故における実況見分調書は、これが代替性のない客観的な証拠であること、また民事上の権利行使のために必要であるということ等を勘案しまして、弁護士を通して閲覧が求められますと、そのほとんどについて開示が行われているというのが現状です

 つまり、刑事裁判で判決が確定した事件の記録は、検察庁に行けば誰でも閲覧できるということだ。 ちなみに、その根拠となっているのは、「刑事確定訴訟記録法」の第四条。そこには「保管記録の閲覧」について次のように記されている。一般の六法全書には掲載されていないことが多いので、参考までに抜粋すると……、

『保管検察官は、請求があったときは、保管記録(刑事訴訟法第53条<訴訟記録の閲覧>第一項の訴訟記録に限る)を閲覧させなければならない。ただし、同条第一項但し書きに規定する事由がある場合は、この限りでない。

2、保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第53条第3項に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があった場合については、この限りではない。

  1. 保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
  2. 保管記録にかかる被告事件が終結した後、三年を経過したとき。
  3. 管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなる恐れがあると認められるとき。
  4. 保管記録を閲覧させることが、犯人の改善及び構成を著しく妨げることとなる恐れがあると認められるとき』

 また、閲覧の手数料については、「刑事確定訴訟記録閲覧手数料令」(昭和63年1月1日施行)第7条(閲覧の手数料)に規定する制令に明記されており、記録1件につき、1回150円となっている。ようするに、150円払えば、刑事記録に目を通すことができるというわけだ。

「しかし現実には、刑事裁判を傍聴したり、刑事記録を読むという人はかなり少ないようです。実況見分調書をはじめとする刑事書類は公式の記録ですが、現実には内容に食い違いのあるものもかなり含まれている、しかし、閲読しないため、誰もそのことに気づいていないのではないでしょうか。そうだとすれば、裁判の公開という原則は全くの形式にしかすぎず、裁判そのものは被害者からますます遠く離れたものになってしまうと思います」

そう語るのは、神戸大学名誉教授で、「交通死−命はあがなえるか−」(岩波新書)の著者である二木雄策氏である。5年前、二木氏は当時大学生だった長女の外朋子さん(19)を交通事故で失った。青信号で横断歩道を横断中だった外朋子さんは、赤信号無視で交差点へ進入してきた車にはねられ、事故から4日後、脳挫傷で亡くなった。

「私の場合は、加害者の刑事判決が確定した後、大阪地方検察庁堺支部に出向き、150円の手数料を印紙で収めて裁判記録を閲覧しました。2cmはあろうかという分厚い記録に半日がかりで目を通しましたが、初めて目にする一方的な弁論主旨の内容には本当に驚きました。検死の写真などは一部、検察官の判断で抜かれていたようですが、重要な部分はその場でメモを取りました。そして、最終的に調書のコピーは弁護士を通して検察庁に謄写を依頼し、実費を支払って手に入れました」

その後、二木氏は弁護士に依頼せず、「本人訴訟」というかたちで民事裁判を闘った。

「刑事判決確定後の記録を閲覧できるというのは、ひとつの権利です。確かに、このような作業は精神的にも大きな苦しみを伴いますが、人任せにせず、自分自身で積極的に、事件にかかわっていくべきだとおもいます」

二木氏は自らの経験をふまえてこう語った。

東京都の長谷智善さん(44)からは、刑事記録の閲覧から謄写まで、すべて個人で行ったという具体的な情報が寄せられた。長谷さんの長男元善君(当時11歳)は、92年11月11日、通学途中に青信号で横断歩道を横断中、同じく青信号で発進、左折してきた大型ダンプにひかれ、亡くなった。

「加害者の刑事裁判が終わり、私が初めて息子の事故の調書類を見たのは、94年6月14日、事故から約1年半後のことでした。この時点ではまだ弁護士も依頼しておらず、全て自分でやりました。まず、加害者が送検されていたのは、東京地方検察庁八王子支部でしたので、私は検察庁の窓口へ直接出向き、『青信号横断中の息子をダンプにひかれ、死亡させられた実の父親ですが、どのようにしたら刑事書類を閲覧できるのですか』と問いあわせました。すると、閲覧は申し込みさえすれば可能とのことで、私は検察庁の中の記録係という部署で、裁判記録閲覧の予約をしました。息子の事故には、<平成5年(う)第310号>という事件番号がついており、検察庁ではその番号をもとに、書類を管理していました」

申し込みから8日後、閲覧の当日に長谷さんが検察庁に持参したものは、「閲覧料150円分の印紙」「身分証明書」「謄本戸籍」そして「カメラ」である。

「案内された閲覧室は、記録係の事務所の一角にあるガラス張りの小さな部屋でした。机の上にはすでに調書類が置いてありました。私は初めてそれに目を通し、これまで知り得なかった加害者の供述内容や、事故直後の現場の生々しい状況などを知りました。コピーは別料金で業者に頼めるということでしたので、私はすぐに依頼しましたが、担当官は快く応じてくださいました。調書に添付されていた写真は、コピーだと不鮮明になるため、持参したカメラで接写することにました。落ちる涙でメガネが曇り、写真にピントが合わせられないこともありましたが、部屋の中でフラッシュを焚いても、事務員から咎められることはありませんでした。閲覧にかかった時間は約一時間半。翌日、担当官から電話があり、調書のコピーが出来ているとの知らせがありました。コピー代は1万円くらいだったと思います」

一方、大分県の岡川忠雄さん(58)からは、
「父親が被害にあった事故の真相を知るため、大分地方検察庁佐伯支部で閲覧の手続きをしたのですが、検察庁がコピーを許可してくれなかったため、カメラを持参し、調書を一ページずつ複写撮影しました」
という情報が届いた。

 岡川さんの父親・満さん(81)は、96年5月、バイクに乗車中、後ろからきた乗用車に追突され、脳挫傷、左足切断という重傷を負った。この事故は当初、満さんの対向車線オーバーによる正面衝突と報道されたが、後日、加害者の虚偽の供述で事実が取り違えられていたことが判明(週刊朝日97年10月qo日号)。結果的に加害者は略式起訴され、40万円の罰金を言い渡された。しかし、この事件は警察の初動捜査に多くの不審点があったため、調書類はどうしても閲覧しておく必要があったのだ。岡川さんは語る。

 「私は加害者の刑事処分がいつ下されるかを聞くために、大分地方検察庁佐伯支部にたびたび出向きました。そして刑が確定した直後に、調書閲覧の申し込みをしました。閲覧する机のすぐ横にコピー機があったので、私は、実費は払いますのでコピーさせてくれませんかと頼みました。ところが検察庁の方は、コピー機は貸せないと言うのです。それなら私の方でコピー機を用意して持っていきますと言うと、持ってくるのは自由だが電源は貸せないと言われました」

 一時は発電器を持ち込もうかと真剣に考えたが、岡川さんはまず弁護士に相談をし、早速検察庁に依頼してもらったが、それでもコピーは認められなかったという。

 「結局、カメラならいいというので、私は14万円もする接写レンズ付きのカメラを買い、再度検察庁に出向いて、全てのページを1枚1枚複写しました。撮影のとき、調書を広げて抑えるのに人手がほしかったのですが、閲覧は1人だけしかできないと言われ、とても苦労して撮影しました。36枚取りのフィルムを10本は使ったと思います」

岡川さんのような苦労談は珍しいことではなく、私は他の事件でもいくつか同じようなケースを耳にしている。

 それにしてもなぜ、検察庁によってこれほどまでにばらつきがあるのか。法務省に問い合わせたところ、
「刑事記録の閲覧については、法律の中に明記されていますが、謄写については特に決まりはありません。検察官の判断によっても異なりますし、最終的に、事件によってケースバイケースのようです」
という答えが返ってきた。

 日弁連交通事故相談センター東京支部長の経験を持つ溝辺克己弁護士は、このような地方検察庁の対応についてこう語る。

 「東京、横浜、大阪などの大きな地検には、厚生会という謄写専門のチームがあり、比較的スムースに謄写できるようですが、地方の地検の小さな支部では、そういう組織はもちろん、人員が少ないとか、備品がそろっていないという理由で、対応できないという実状があるのかもしれません。確かに、刑事記録の取扱いは難しいと思いますが、法律に閲覧させることが明記されている以上、閲覧をさせて謄写をさせないというのは、合理的な根拠にかけるのではないでしょうか。謄写はダメだというのなら、ダメな理由の開示を求めるべきでしょう」

 それでもらちが明かない場合は、民事裁判を起こして、裁判所から刑事記録を証拠として取り寄せるか、裁判を起こす前提で弁護士と受認契約を結び、弁護士照会で検察庁から記録を取り寄せる方法があるという。これならほぼ確実に入手できる。ただし、調書類を見ないで、訴訟に踏みきるかどうかを決断することは、被害者や遺族にとっては至難の業だろう。

溝辺弁護士は語る。

 「厳しいようですが、現在のところ、交通事故における損害の立証責任は、全て被害者側にあります。誰かが何とかしてくれるだろうという甘い考えでは、決して満足のいく解決はできません。遠方の場合などは大変だと思いますが、調書を閲覧したい場合は、まず地検の窓口に行き、法律に基づいて行動してください。しかし本来は、謄写の立法化や、実況見分調書を欧米と同じように早期開示できるようにするなど、国は被害者に対するさまざまな手当を前向きに考えていくべきだと思います」

衝突事故で妻を失った成田一彦さんは語る。

 「事故直後から実況見分調書を開示すれば、ずさんな捜査も減り、今よりは公平になるでしょう。でも、現状が続く限り、被害者・遺族として、加害者が裁かれる刑事裁判の過程から見守ることをぜひおすすめします。誰しも当事者になってはじめて気がつくことですが、刑事裁判は、被害者側とはまったく関係のない世界で行われるのです。私たち遺族は刑事裁判がいつどこで開かれ、加害者がどのような刑罰を受けたかということすら知らされません。そして、密室で行われた刑事裁判の結果は、最終的に民事裁判にも影響を及ぼすのです」

*「これでいいのか自動車保険」(朝日新聞社)第三章に収録

© 柳原 三佳