愛娘の車は「不正改造」の大型トレーラーにつぶされて… 車検後、あえて摩耗タイヤに履き替える悪質さ
2025.6.11(水)
6月は『不正改造車を排除する運動』の強化月間ということもあり、私は昨日(6月10日)、以下のまとめ記事を「エキスパートトピ」として発信しました。
危険、ダサい、自己満足… 悪質な不正改造で死亡事故も 6月は「不正改造車」の排除月間 #エキスパートトピ(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース
この記事は「Yahoo!ニューストピックス」にアップされたこともあり、大きな反響がありました。
コメント欄には800件を超える投稿が寄せられ、爆音の出るマフラーや、鬼キャン(車のキャンバー角を極端にマイナスにするカスタム)、スモークフィルム等への批判が相次ぎ、いかに多くの人がこうした改造に困惑し、憤っているか、そして、適切な取り締まりを求めているかがよくわかりました。
一方、コメントの中には、少数ながらも、
「不正改造って言うよりは整備不良の事故じゃないですか? 論点が少しズレていますよ」
「記事内の例は不正改造というか整備不良だよな。見出しとの整合性もないしよくわからない記事」
といった批判的なものも見受けられました。
■保安基準に適合しない、装置の取付け又は取り外しとは?
まとめ記事の中で私は、札幌で発生した不正改造車(ジムニー)のタイヤ脱落事故(4歳女児が意識不明の重体)と、茨城で発生した大型トレーラー横転事故(21歳女性がコンテナの下敷きになり死亡)を例示しました。
まず、ジムニーのタイヤ脱落事故。直接的な原因はホイールナットの緩みでしたが、この車にはワイドタイヤが装着され、それに伴ってオーバーフェンダーが取り付けられており、保安基準には適合していない「不正改造車」でした(以下の記事参照)。
●改造車の脱落タイヤ直撃で愛娘は今も意識不明、判決待つ父親の苦悩「加害者は無保険、口先では賠償すると言うが…」(1/5) | JBpress (ジェイビープレ))2025.4.18
一方、大型トレーラー横転の方は、車検時には溝のあるタイヤをつけてクリアし、事故時には溝のないつるつるのタイヤを履いていたことが明らかになっています。まさに悪質な偽装工作です。タイヤのコストカットが目的と思われますが、結果的に、雨の日に速度オーバーで走行したことで、横転という大事故を引き起こしたのです(以下の記事参照)。
●21歳になったばかりの愛娘を下敷きにした横転トレーラーは雨の中、摩耗しきったタイヤで速度超過の悪質運転だった(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) 2025.5.19
摩耗タイヤを履いた大型トレーラーが、速度オーバーで横転死亡事故を起こした茨城県常総市の国道294号。見通しのよい幹線道路だ(筆者撮影)
一部の投稿者は、これらの事故を起こした車は、あくまでも「整備不良車」であって、「不正改造車」ではない、という認識をお持ちのようです。
しかし、この二つの事故を起こした車は、いずれも「不正改造車」です。
念のため、国土交通省にも確認しましたが、以下『道路運送車両法 第五十四条の二』(*1)に明記されているとおり、「保安基準に適合しない状態にあり、かつ、その原因が自動車又はその部分の改造、装置の取付け又は取り外しその他これらに類する行為に起因するものと認められる」場合は、「不正改造車」に該当する、とのことです。
(*1) 『道路運送車両法』第五十四条の二
地方運輸局長は、自動車(小型特殊自動車を除く。)が保安基準に適合しない状態にあり、かつ、その原因が自動車又はその部分の改造、装置の取付け又は取り外しその他これらに類する行為に起因するものと認められるときは、当該自動車の使用者に対し、保安基準に適合させるために必要な整備を行うべきことを命ずることができる。この場合において、地方運輸局長は、当該自動車の使用者に対し、当該自動車が保安基準に適合するに至るまでの間の運行に関し、当該自動車の使用の方法又は経路の制限その他の保安上又は公害防止その他の環境保全上必要な指示をすることができる。
車検のときだけ保安基準に適合させ、車検が終われば各種装置を取り外したり、取り付けたり……、こうした行為は大変悪質です。摩耗したタイヤに履き替える行為は、俗にいう「シャコタン」「竹やりマフラー」「鬼キャン」などとは一見異なるようにも見えますが、その分類としては同じく「不正改造」にあたるのです。
■偽装車検でつるつるタイヤの大型トレーラーの犠牲に
以下は、大型トレーラー横転死亡事故を報じる『読売新聞』(2023年5月21日)の記事です。
19日午後4時55分頃、常総市水海道山田町の国道294号で、対向車線にはみ出した大型トレーラーが、前から来た乗用車と軽乗用車に次々と衝突し、横転した。この事故で、軽乗用車を運転していた同市豊岡町乙、栄養士星有里紗さん(21)が搬送先の病院で死亡。乗用車のつくばみらい市の男性会社員(61)もすねの骨を折るなどの重傷を負った。
常総署は、大型トレーラーを運転していた小美玉市川戸のトラック運転手、田名見良太容疑者(34)を自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)容疑で現行犯逮捕。容疑を過失運転致死傷に切り替えて調べている。
警察は事故から4か月後、トレーラーを運転していた男を自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)容疑などで書類送検、また、トレーラーの管理者で運送会社役員の父親(59)も、適切な整備を怠ったとして、業務上過失致死傷などの容疑で書類送検しています。しかし、双方ともまだ起訴はされていません。遺族は危険運転致死傷罪での裁判を強く望んでいます。
■不正改造絶対やめて! プロドライバーとしての意識を
事故直後の現場を撮影したXの投稿。まだ救急車や警察車両が到着前だ(遺族提供)
上の写真は、大型トレーラーが横転事故を起こした直後の写真です。Xの投稿者にご両親が許可を取り入手されたものです。
偶然、ここを通りかかっただけの、何の過失もないひとりの女性が、一瞬にして無限の未来と命を奪われたのです。
この事故で亡くなった星有里紗さん。ラーメン好きのお父さんと一緒に、よくラーメンフェスに出かけていたという(遺族提供)
この事故で、軽乗用車に乗っていた娘の有里紗さん(21)を亡くした星伸一さん(57)、ひろみさん(58)夫妻は訴えます。
「加害車両は大きなコンテナをけん引する大型トレーラーです、にもかかわらず、なぜこのような行為ができるのでしょう。もし、タイヤがバーストしたらどれだけ大きな事故になるか、考えているのでしょうか。私たちは普段、軽自動車に乗っていますが、それでも『タイヤの山が減っている』と言われれば不安ですし、運転を続けるのが怖いのですぐに交換します。毎日車の運転をしているからこそわかることだと思います」
亡くなった有里紗さんは、事故の1カ月前に夢だった栄養士の道を歩み始めたばかりでした。今年の5月で事故から2年となりましたが、両親は今も有里紗さんの部屋をそのままにしています。
両親は、亡き有里紗さんの部屋をあの日のまま保存している(筆者撮影)
「大型車を運転する人は、プロのドライバーとしての意識、自覚を持って運転すべきです。国交省としてもこうした不正改造で事故をおこした会社に対しては、長期間の営業停止処分や営業取り消しなど、厳しい処罰を与えてもらいたいです。不正改造車は自己満足で身勝手な自分の欲求を満たしているだけであり、事故につながる可能性が高く、処分を厳しくしないとこういった事故はなくならないと思います。本当に悔しいです」
不正改造は大変悪質で危険な行為です。保安基準が何のためにあるのか、「知らなかった」では済まされません。今一度しっかりと認識することが大切です。
以下、国土交通省のサイトをぜひご参照ください。
国土交通省のサイトより