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そもそも障害者を差別し、減額主張をしている「張本人」は誰なのか 【難聴女児死亡事故】

2024.9.7(土)

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そもそも障害者を差別し、減額主張をしている「張本人」は誰なのか 【難聴女児死亡事故】

危険運転により命を奪われた聴覚障害女児の「逸失利益」(事故がなければ得られたであろう生涯の収入)を巡る民事訴訟が、9月3日、大阪高裁にて結審した。てんかんの持病を隠し、ホイールローダーを運転していた加害者による暴走死傷事故から6年7カ月、被害者には全く落ち度のない事案でありながら、なぜ裁判はこれほど長期化し、遺族は苦しめられているのか。そして、被告側による「障害者差別」ともいえる一方的な減額主張は、いったいどのようなもので、実質的には誰が主導でおこなっているのか。まとめてみた。

聴覚障害のあった井出安優香さん(当時11歳)は2018年、下校中に重機にはねられ死亡し、遺族は運転手(41)らに損害賠償を求めています。裁判は、安優香さんが将来得られるはずだった収入「逸失利益」が争点で、1審の大阪地裁は安優香さんの障害が「労働力に影響がない程度ということはできない」と、全労働者の平均賃金の85%と判断し、遺族側が控訴していました。

「娘の成長した姿を想像し、思いを押し殺している」 11歳少女死亡事故の損害賠償訴訟 聴覚障害者の“逸失利益”が争われた裁判の2審が結審(ABCニュース)2024/9/3

自身も聴覚に障害があるという宮城教育大学の松崎丈教授が出廷し「安優香さんの日記を確認しても当時から健常者と同等の学力があったと見受けられ将来の就労も健常者と同等の労働ができると考える。また、聴覚障害を理由に健常者と同等の就労ができないと考えるのは間違いだ」と証言しました。

生野重機死亡事故の控訴審で証人尋問「健常者と同等の就労できないのは間違い」(テレビ大阪)2024/6/11

交通事故の民事裁判では、被告本人の意思よりも、被告側が加入している任意保険会社の判断が大きな影響を与えている場合が多いのが現実です。

聴覚・視覚障害の弁護士たちが立ち上った! 難聴の11歳女児死亡事故裁判に異議(柳原三佳/Yahoo!ニュースエキスパート)2021/5/6(木)

遺族側代理人で聴覚障害のある田門浩弁護士が手話で「裁判所には差別をなくす方向に前進するよう力強いメッセージを期待する」と意見陳述し、運転手側は控訴棄却を求めた。

「差別なくす方向に」 聴覚障害児の逸失利益巡る訴訟、控訴審始まる(朝日新聞)森下裕介 山本逸生 2023/10/20

エキスパートの補足・見解

 本件裁判で、被害者への賠償額を減らすべきだと主張をしている「被告」とはいったい誰なのか。書面上は加害本人とその雇用会社だが、筆者の取材経験から、実際には加害者側が自動車保険を契約している損保会社が主導していると思われる。

 契約者はいざというとき被害者に十分な賠償できるようにと対人無制限の保険に加入している。にもかかわらず、多くの事故処理において、契約者の意に反して「利益相反」ともいえる示談交渉や裁判が横行しているのが現実だ。

 実は当初、被告側は女児の逸失利益について「一般女性の40%」と決めつけ、さらに低い提示をしていた。「聴覚障害者には『9歳の壁』があり、思考力や言語力・学力は小学校中学年の水準に留まる」というのだ。この一方的で理不尽な主張は、一審の途中で被告側が自ら撤回するという一幕があったのだが、「初回提示はとりあえず低いラインから」という損保業界の常套手段が見えた気がした。 

 本裁判には聴覚障害、視覚障害のある弁護士をはじめ、総勢38名の支援弁護士が名を連ねている。年少者、障害者の努力や未来の可能性を否定するこうした主張は許されるのか。また、加害者本人や雇用会社は長期化する裁判に何を思うのか。自動車保険、損保会社のあり方も議論されるべきだろう、