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大切な家族を車に同乗させる… その責任の重さと「加害者」にならないための心得

2024.8.31(土)

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大切な家族を車に同乗させる… その責任の重さと「加害者」にならないための心得

■家族の中で「加害者」と「被害者」の関係を生む過酷

 8月後半、ドライバーの過失によって同乗中の家族が死亡するという悲しい事故のニュースが相次ぎました。

 8月18日、福岡市早良区の国道で発生したのは、センターラインを突破した軽乗用車と路線バスとの正面衝突です。この事故で、母親が運転する軽乗用車の後部座席に乗っていた7歳と5歳の姉妹が、シートベルトによる圧迫によって死亡したことから、チャイルドシート着用の必要性や体格の小さい子どもの正しいシートベルト装着方法について、議論が高まりました。

 8月21日には、山形県小国町で高齢男性が運転する軽トラックが、道路脇のコンクリートの壁に衝突。助手席に同乗していた妻(79)が多発外傷により亡くなっています。

 そして、8月26日、長野県上田市の上信越道では、家族5人が乗った旅行帰りのキャンピングカーが走行中に横転。8歳の男の子が亡くなり、70代の祖父母が重軽傷を負うという痛ましい事故が発生しました。報道によれば、キャンピングカーはレンタカーで、ハンドルは男の子の父親(48)がにぎっていたそうです。

 最愛のわが子が、そして、長年連れ添った伴侶が、自身の運転ミスによって一瞬にして命を失ってしまう……、想像するだけで苦しくなります。しかし、こうした事故は実際に起こっています。

 マイカーに家族を同乗させて走ることが日常生活の一部になっているという人も多いと思います。しかし、ハンドルを握る自分自身が、ある日突然、大切な家族に被害を与える「加害者」にもなりうるということを忘れてはなりません。

■被害者が家族であっても罪に問われる

 では、同乗者に対して、ドライバーはどのような責任を負っているのでしょうか、あらためて確認しておきたいと思います。

 まず、刑事的な責任についてです。自分の過失で交通事故を起こし、万一、同乗中の家族が死傷した場合、「家族」だからといって見逃されることはありません。そうした場合も法律にのっとって、運転者に対しては過失運転致死罪や危険運転致死罪を視野に捜査が進められます。

 ちなみに、自動車運転処罰法に定められている条文をみると、『「人」を負傷、死亡せた者を処罰する』という内容が明記されています。ここでいう「人」は、歩行者や自転車、相手の車に乗っている人だけでなく、自分が運転している車の同乗者も含まれます。

 自分の過失による事故で、同乗中の大切な家族が重傷を負ったり亡くなったりするという衝撃や悲しみは計り知れませんが、あくまでもそうさせてしまったのはドライバー本人の責任です。その運転に明らかな違法性がある場合は、逮捕されることもあるのです。 

 こうしたことにならないよう、ハンドルを握る際は、道路交通法で定められたルールを必ず守らなければなりません。

 6歳未満の子どもに義務付けられたチャイルドシートの着用はもちろん、6歳以上になってもジュニアシートや補助ベルトを着用させる、また、大人も後席シートベルトの着用を徹底するなど、ドライバーとして必ず同乗者に促すことが必須です。

 家族の中で「加害者」と「被害者」の関係を生むことがないよう、常に細心の注意を払ってください。

もし、単独事故で同乗の家族を死傷させてしまったら……(写真:イメージマート)

もし、単独事故で同乗の家族を死傷させてしまったら……(写真:イメージマート)

■対人保険、補償するのはあくまで「他人」

 もちろん、同乗者に対しても民事的な責任は発生します。

 ほとんどの人は万一の人身事故に備え、任意保険の「対人賠償保険」をかけていると思います。しかし、同乗中の家族が死傷した場合、この保険は支払われません。

 対人保険は、あくまでも「他人を死傷させた場合」に、自賠責保険ではまかなえない部分をカバーするための保険です。つまり、契約者の配偶者や子ども、親などは「他人」ではないため、基本的には補償の対象外になるのです(別居の未婚の子どもについては各社に問い合わせてください)。

 冒頭で例示した事故は、いずれも「対人保険」の対象にはならないということになります。

 同乗者である家族の補償を受けるためには、人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険への加入が必要になります。

 人身傷害保険は、契約者やその家族が契約車に同乗中、その過失割合に関わらず、万一の事故で死傷した場合に損害を補償してくれます。特に、後遺障害が残った場合などは、長い期間の療養やリハビリのほか、介護費用が必要になりますので、こうした補償は不可欠です。

 さらに補償の範囲を広げておくと、契約者や家族がバスやタクシーなどに乗車中、歩行中、自転車乗車中の事故による損害についても補償されます。任意保険に加入するときは、人身傷害保険の補償内容も、家族を守るためにしっかり確認しておきましょう。

 なお、搭乗者傷害保険も、契約車に搭乗している人が事故によって死傷した場合は、家族であってもケガの部位や程度、症状によって決まった補償を受けることができます。この保険もドライバーの過失割合は関係ありません。

■頑丈で安定性の高い車選びも大切

 もちろん、保険だけでなく、私は車選びが家族を守るためには極めて重要だと思っています。万一のとき、同乗者への衝撃を最小限にできるるよう、衝突安全基準をチェックし、できるだけ安定性の高い頑丈な車を選択することも大切です。

 とにかく、家族といえども、車に同乗させる際には常に最悪の事態を想定し、あらゆる角度から備えてください。その意識こそが、安全運転につながると信じています。