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シートベルトが時には凶器に、子どもを守るために必須の「チャイルドシート」、嫌がらずに座ってもらう工夫

2024.8.24(土)

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シートベルトが時には凶器に、子どもを守るために必須の「チャイルドシート」、嫌がらずに座ってもらう工夫

 お盆休み明けの8月18日、福岡市早良区で発生した軽乗用車と路線バスによる痛ましい事故。衝突の原因は軽乗用車の中央線突破で、その瞬間は現場の防犯カメラにもしっかりと記録されていました。

 この事故で、軽乗用車の後部座席に乗っていた7歳と5歳の姉妹がシートベルトによる腹部圧迫によって亡くなったことから、いま、あらためてシートベルトの正しい装着法やチャイルドシートの必要性についての議論が高まっています。

装着したシートベルトが原因で亡くなる子どもも

 日本では、6歳未満の子ども(幼児)を車に乗せる場合、道路交通法でチャイルドシートの着用が義務付けられています。本件事故では5歳児が乗っていたにもかかわらず、軽乗用車の中にチャイルドシートが装備されていなかったとのこと。これは明らかな違反行為であり、運転者である母親が法を遵守していなかったことが残念でなりません。

 一方、7歳児はすでに、チャイルドシートの着用義務はありません。しかし、後席できちんとシートベルトを装着していたにもかかわらず、逆にシートベルトで身体を傷つけられる結果となってしまったことで、悲しみとともに不安の声が高まりました。

 実は、車のシートベルトは身長140センチ以上の体型を基本として設計されています。7歳女児の平均身長は約120センチなので、20センチ足りません。こうしたケースでは、ジュニアシートなどで座席の高さを上げたり、補助ベルトでシートベルトの位置を調整したりして、いざというときベルトが首や腹部を圧迫しないよう調整する必要があるのですが、子どもが6歳以上になると、保護者が皆そこまでの配慮をしているとは言えないのが現状です。

背もたれのないタイプのチャイルドシート、いわゆるジュニアシート。こちらを使用する場合も、肩部分のシートベルトが首にかからないかどうかチェックしてから使用してほしい

背もたれのないタイプのチャイルドシート、いわゆるジュニアシート。こちらを使用する場合も、肩部分のシートベルトが首にかからないかどうかチェックしてから使用してほしい

 筆者は交通事故の取材を通して、子どもが被害に遭う悲しい事故を数多く見てきました。特に、自分の車に乗せていた我が子が、大けがを負ったり、死亡したりするという事故が起こったときの親の悲しみ、自責の念は決して消えるものではなく、大変過酷です。

 だからこそ、子どもを車に乗せるということを甘く考えず、正しい知識を持ち、常に月齢や体型に応じた細やかな備えをすることが必要だと痛感しています。子どもは日々成長していくのです。

再認識されたチャイルドシートの重要性

 さて、そんな中、以下のニュースが発信され、注目を集めています。

(外部リンク)<独自>JAF、チャイルドシート推奨基準を150センチ未満に引き上げへ 事故多発受け(産経ニュース:2024.8.21)

 記事から一部抜粋します。

『チャイルドシートを使わず、シートベルトをした子供が死傷する事故の増加を受け、日本自動車連盟(JAF)がチャイルドシートの使用を推奨する基準を見直すことが21日、わかった。これまでチャイルドシートの使用は身長140センチ未満を推奨していたが、安全性を重視し、来年に150センチ未満に引き上げる』

 これは大変重要な見直しだと思います。

 ちなみに、自動車工業会では、すでに『身長150cmになるまではジュニアシートの使用が必要である』と提言していました。

(外部リンク)チャイルドシート啓発 | JAMA - 一般社団法人日本自動車工業会

 考えてみれば、ジェットコースターのような遊園地のアトラクションでも、子どもの年齢ではなく、身長で制限しているところがほとんどです。

 たとえば、東京ディズニーランドの人気アトラクション「ビッグサンダー・マウンテン」では、乗車可能な子どもを、年齢ではなく、身長(102センチ以上)で規制しています。車はアトラクションのようにレールの上を走るわけではないので、より厳格に身長制限を設けるべきだとかねてから感じていました。

 今回、JAFがチャイルドシート推奨の基準を140から150センチへ引き上げることで、安全性への意識がより高まることは間違いなく、お子さんを車に乗せる機会のあるご家庭ではぜひシートベルトの着用状態を再確認してください。と同時に、国も道交法の見直しを検討すべきではないでしょうか。

チャイルドシート未着用が原因で生まれた悲劇

 今年5月、保護者が運転する車に乗っていた子どもが死傷するという痛ましい出来事が相次ぎました。いずれもチャイルドシートさえ着用していれば防げた事故でした。

 5月15日、奈良県内のコンビニの駐車場では、母親が車をバックさせた際、何らかの原因でスライドドアが開き、4歳の女の子が転落。その車にひかれて意識不明の重体になりました。

(外部リンク)4歳女児 車にひかれ意識不明 母の車から転落か 奈良 御所(NHK 関西NEWS WEB)

 また、6日後の5月21日には、東京都内で2歳の女の子が母親の運転する車のパワーウインドウに首をはさまれ、亡くなっています。

(外部リンク)2歳女児 「パワーウインドー」に首挟まれ死亡 東京 練馬(NHK)

 私も最近、4歳になった孫を車に乗せることがあるだけに、これらのニュースを見たときには他人事ではなく、大きなショックを受けました。幼い子どもは、チャイルドシートに縛り付けられることを嫌がり、ときにぐずったり、大泣きしたりします。また、ある程度の年齢になると、自分でシートベルトやハーネスを外したり、ロックを解除してしまったりすることもあるため、常に完璧な状態でチャイルドシートを装着させて走行するというのは、実は簡単なようで、非常に難しいこともまた事実です。

一番大切なのは、子ども自身の「自覚」

 では、子どもを安全、かつ確実にチャイルドシートに座らせるためにはどうすればよいのでしょうか。

 その解決策のひとつとして私自身が実感していること、それは、「子ども自身にチャイルドシートの必要性を認識させる」ことの大切さです。

 それは5月21日、パワーウインドウにはさまれてお子さんが亡くなるという事故があった日のこと、孫のSちゃんが私にこう話してくれたのです。

「チャイルドシートはちゃんとしなきゃダメなんだよ。クルマのまどに、おくびをはさまれちゃうから」

 おそらく、保育園の先生からこの事故のお話を聞いたのでしょう。4歳児でもここまでチャイルドシートの必要性を理解し、大人に説明できることに、私は大きな驚きを感じました。

 そこでふと、思い立ちました。

「そうだ、お家へ帰ったら、チャイルドシートをしていないと、子どもがどんなけがをするか、YouTubeで見てみる?」

 するとSちゃんは、

「うん、見るー」

 と返事をしたので、私は帰宅後、Sちゃんを膝の上に乗せ、JAFが制作した『チャイルドシート不使用の危険性~衝突時~【JAFユーザーテスト】』題された以下の動画を一緒に見たのです。

(外部リンク)チャイルドシート不使用の危険性~衝突時~【JAFユーザーテスト】

 バーン! という音とともに車が衝突した瞬間、Sちゃんは一瞬、身体をびくっとさせましたが、再生が終わると、「もういちどみる」と言うので、もう一度一緒に見ることにしました。

 そして、動画を見終えたSちゃんは、淡々とした口調でその感想をこう話してくれました。

「チャイルドシートをしないと、赤ちゃんは飛んでいくんだね。そしてお顔をぶつけちゃうんだね」

チャイルドシートの使用に前向きに

 あれから3カ月が経過しました。JAFの衝突実験動画を見るまでは、隙あらばチャイルドシートのベルトから脱出しようとしていたSちゃんでしたが、あの日を境に、まるで別人のようになり、現在も自分からすすんでチャイルドシートやジュニアシートを装着しています。

 ときには、

「ママ、チャイルドシート、ちゃんとつけてね。でないと、Sちゃんのお顔がつぶれちゃうんだから」

 そう言って母親に注意を促しているほどです。その姿や態度は、これまでチャイルドシートにいやいや座っていた頃とはまったく異なるものです。

 また、実験動画を見た直後の「おかおをぶつける」という言葉が、「おかおがつぶれちゃう」に変化していることにもドキッとしました。とにかく、衝突実験動画視聴後の4歳児の激変に、私も娘も唖然とするばかりです。

 衝撃的な映像を子どもに見せるべきか否か……、それについては、さまざまな意見があるでしょう。しかし、Sちゃんの場合は、その現実を目の当たりにしたことによって明らかに意識が変わりました。チャイルドシートやジュニアシートがなぜ必要なのか? そのことを自分でしっかり認識することができてはじめて、「受け身」ではなく「自発的」に装着するようになったのです。

 チャイルドシートを推奨する身長の規制を変えていく取り組みと同時に、車を運転する保護者はもちろん、物心がついた子どもたちには、「自分のこと」としてのチャイルドシートの必要性を教えていくことが大切だと思います。