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悪質運転で我が子を奪われた親たち「危険運転致死傷罪」見直しへ始動

2023.11.27(月)

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悪質運転で我が子を奪われた親たち「危険運転致死傷罪」見直しへ始動

■首相が「危険運転致死傷罪」問題に初答弁

 2023年11月22日、国会(衆議院予算委員会)で、危険運転致死傷罪の問題が取り上げられました。質問を行ったのは、緒方林太郎衆議院議員、答弁に立ったのは岸田文雄首相です。

 緒方議員は、飲酒や超高速度といった悪質な運転によって引き起こされた交通事故の多くのケースで、危険運転致死傷罪の適用がなされていない例を挙げ、「一般国民の理解を超えた状況にある」と指摘。「この要件の見直しについて答弁いただければ」と迫りました。

 それに対して、岸田首相は、

「構成要件が不明確である、適切にこの法律が適用されない、こうしたさまざまなご意見、ご指摘があることは承知しております。その上で、自民党においても交通安全対策特別委員会にPT(プロジェクトチーム)を設置して議論を行っている次第であります。所管の法務省の対応として検討をすると申し上げており、適正に対応するものと考えております」

 と答弁。危険運転致死傷罪の見直しについて首相が答えるのは初めてのことです。

11月22日の予算委員会で、緒方林太郎議員の質問に答える岸田首相(衆議院のサイトより)

11月22日の予算委員会で、緒方林太郎議員の質問に答える岸田首相(衆議院のサイトより)

■自民党がプロジェクトチーム(PT)立ち上げ

 危険運転致死傷罪は2001年、飲酒運転や赤信号無視、超高速度での走行など、悪質な運転で人身事故を起こした運転者の厳罰化を目的に新設されました。
 法定刑は最長で懲役20年ですが、現実には立証のハードルが極めて高く、明らかに危険と思われるケースでもこの罪が適用されず「過失」で起訴されるケースが相次いでいます。

 岸田首相の答弁にもあったように「構成要件が不明確」であるため、これまで多くの被害者遺族が「危険運転致死傷罪」の条文見直しについて声を上げてきたのです。

 それを受けて自民党は、2023年10月、交通安全対策特別委員会に「危険運転致死傷のありかた検討PT」を発足。まずは政府から現状について説明を聞き、11月15日には被害者遺族と被害者支援弁護士からヒアリング、さらに11月末には刑法学者をはじめとする有識者の意見を聞いて取りまとめた上、12月に政府等への申し入れを検討しているとのことです。

 本PTの座長である平沢勝栄議員の他、多数の国会議員に、1年前から現状の問題を訴え続けてきた、波多野暁生さん(46)は語ります。

「8月に続き、11月15日にも自民党のPTに呼ばれて、私の体験と意見を述べてきました。会議は非公開で実施されたのですが、約20名の国会議員のほか、法務省や警察庁からも担当者が出席しており、私の言いたいことは伝えられたと思います」

ハーフ成人式でドレスに身を包む10歳の耀子さんと父親の波多野暁生さん(遺族提供)

ハーフ成人式でドレスに身を包む10歳の耀子さんと父親の波多野暁生さん(遺族提供)

■青信号で横断中、信号無視の車に命を奪われた娘

 波多野さんは2020年3月、長女の耀子さん(当時11)と共に青信号で横断歩道を横断中、赤信号無視の車にはねられました。耀子さんは頚髄損傷で死亡。波多野さんも大けがを負ったのです。

*事故の概要(起訴前の段階)については、以下の記事(2021.3.22)を参照してください。

<亡くなった娘と撮った家族写真 赤信号無視の車に断ち切られた未来(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース>

 本件の加害者は「赤信号と分かっていて進行した」と供述していました。しかし、検察は当初、危険運転での起訴は見送り、「過失」で処理する方針を波多野さんに告げていたのです。

「悪質な犯罪行為を起因とする運転によって、ある日突然、我が子を殺される……。この体験の峻烈さは、言葉では言い表すことができません。このようなかたちで娘の命を奪われ、それを『過失』で処理されるなど、到底納得できるはずもありません。もちろん、過失犯であろうが、故意犯であろうが、娘が生き返る訳ではありません。しかし、危険運転致死傷罪という刑罰がある以上、親にとって、被告をいかに厳罰に問うかは大きな問題で、これは絶対に負けるわけには行かない勝負なのです」(波多野さん)

 赤信号無視も「危険運転致死傷罪」の類型のひとつです。波多野さんは、「なぜ、故意犯ではないのだ、危険運転に問えないのだ」と、検察に必死で食い下がりました。
 波多野さんは振り返ります。

「結果的に、検察は加害者を危険運転致死傷罪で起訴。そして、事故から約2年後、東京地裁は懲役6年6月の実刑判決を下しました。しかし、もし我々が当初の説明を聞いてあきらめていたらどうなっていたでしょうか。間違いなくこの事件は、淡々と『過失犯』で処理が進んでいたはずです。本来なら危険運転で起訴されるべきなのに、条文のあいまいさで適用漏れとなり、悔しい思いをされている被害者遺族は全国に沢山おられます。そして、捜査にあたる警察官や検察官の方々も条文が不明確なので大変に悩み、多くの労力を割いてもなお結果的に過失運転で処理せざるを得ず、何度も悔しい思いをしてきたという話を直接聞いています。こうした事を少しでも減らしていくために危険運転の条文を今よりも明確にする必要があると思うのです」

東京・葛飾区の事故現場交差点(筆者撮影)

東京・葛飾区の事故現場交差点(筆者撮影)

■『これが今の法の限界…』その言葉を何度も突き付けられて

 波多野さんは2023年10月18日、元最高検検事の城祐一郎氏(昭和大学医学部教授)をアドバイザーに、「危険運転致死傷罪の条文見直しを求める会」を立ち上げました。
 会のサイトには、『起きてしまった事件の被害者のために。これからの事件を抑止するために。条文の見直しを求めます』というキャッチコピーと共に、会の趣旨と活動の目的がこう記されています。

「危険運転致死傷罪の条文見直しを求める会」(見直す会)は、悪質な運転について「他人の安全に無関心、無配慮な運転行為で人を死傷させた場合、故意犯に準じて処罰すべき」という危険運転致死傷罪の創設趣旨にかなった取締り実務がより確実に強化され、その結果として交通安全の促進が更に進むように自動車運転死傷行為処罰法の条文の改正を求めます。

 この会の賛同者の一人に、波多野さんと同じく「危険運転」によって我が子の命を奪われた富山県の遺族も名を連ねています。
 以下の記事は、2019年の子どもの日に、飲酒運転の車に衝突されて亡くなった小学生の心誠くん(当時9)の事件についてレポートしたものです。

<5月4日で終わってしまった日記 飲酒事故で愛息奪われた両親が法廷で訴えたこと- エキスパート - Yahoo!ニュース>

心誠くんの日記の最後のページには「明日はもっと楽しくなるといいです」、そう綴られていた(遺族提供)

心誠くんの日記の最後のページには「明日はもっと楽しくなるといいです」、そう綴られていた(遺族提供)

 本件の加害者は刑事裁判で、「過労や睡眠不足の影響が否定できない」として、「過失」を主張していましたが、その主張は退けられ、2022年1月、危険運転で懲役4年の実刑判決が確定しました。しかし、この結果を勝ち取るまでには、遺族による懸命な訴えと証拠固めなどの活動があったのです。

<「危険運転」で懲役4年確定 大津・飲酒逆走事故で9歳男児亡くした父の思い) - エキスパート - Yahoo!ニュース>

 心誠くんの両親は、自身の体験をふまえ、会への思いについてこう語ります。

「『これが今の法の限界です』 判決までの間、この言葉を何度聞いたことでしょうか。私たち以外にも、この言葉に悔し涙を流されたご遺族は多いはずです。私たちは、危険運転致死罪を勝ち取ることができましたが、悪質な交通犯罪における危険運転と過失運転の線引きには大きな疑問を感じています。このことを見逃すことはできません。同じ思いをされた波多野さんは、私たちが半ば諦めていた法改正への道筋を切り開いてくれました。私たちも続いて行こうと思います。そして、力の限りを尽くして行きたいと思います。PTにおいて、被害者や遺族の苦しみ、及び自動車運転死傷処罰法の条文見直しの必要性が理解され、悪質な交通犯罪に対して適切な刑罰を与えられるように法改正されて行くことを強く望みます」

飲酒運転の車に衝突され命を奪われた心誠くん(遺族提供)

飲酒運転の車に衝突され命を奪われた心誠くん(遺族提供)

 飲酒運転や信号無視、制限速度を大幅に超える高速度での走行は、法律で禁止されています。それを身勝手な理由で犯し、結果的に起こった重大事故を「過失」として裁いてよいのか。いったい何のために「危険運転致死傷罪」が新設されたのか……。
 危険運転に対する重い罪が存在しながら、その適用要件があいまいなために「危険運転」で立件されず、結果的に「過失」で処理された被害者遺族にとっての悔しさ、無念さ、それはまさに、国による二次被害ともいえるでしょう。

 波多野さんはこう呼びかけます。

「一緒に何かができるとか、慰められるとか、そうしたことが私にできる訳ではないと思いますが、悔しさを集めて、然るべき人に届けることはやりたいと思っています。よろしくお願いいたします」

<参考サイト>

「危険運転致死傷罪の条文見直しを求める会」(見直す会)

波多野さんのnote(波多野暁生/Akio Hatano|note)

<危険運転での立件を訴える事件の一例>

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