【大阪アメ村・飲酒逆走死亡事故】24歳被害者の母親が慟哭 「娘の命を馬鹿にしています」
2023.6.5(月)
「あの日から8年……。今年も事故の発生時刻に、現場で手を合わせました」
そう語るのは、大阪府に住む河本友紀さん(51)だ。
【画像】加害者は、車を駐車場に停め飲酒…酒気帯びで車を発進させた"現場写真"
’15年5月11日、事故は大阪市のアメリカ村(中央区)で発生した。河本さんの長女で看護師だった恵果(けいか)さん(当時24)は自転車で走行中、突然、一方通行の道路を逆走してきた車に衝突されたのだ。
「娘は加害者のタイヤで頭部を轢(ひ)かれ、ほぼ即死の状態でした。生前とはまったく違う姿の遺体と対面してから、私の心は止まってしまいました」(友紀さん)
自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で現行犯逮捕された加害者の女(当時25)の呼気からは、基準値を超える0.25㎎のアルコールが検出された。
本人の供述によると、車を駐車場に停めた後、コンビニで買った500㎖の缶ビールを1本、その後、友人と入った店で生ビールを3~4杯飲み、さらにコンビニでカクテルを購入。防犯カメラには、かなり酔って歩く姿が記録されていた。
事故は、その後まもなく発生した。
調書には「私はお酒に酔っている状態で車を運転しました」という、女の供述も残されていた。
ところが結果的に、重い罪である「危険運転致死傷罪」に問われることはなかった。大阪地裁は、飲酒の事実は認めながらも、より軽い「過失運転致死傷罪」で懲役3年半という判決を下したのだ。検察側は控訴したが、高裁は「飲酒していない運転手でも犯し得るミス」として棄却。’17年10月、判決は確定した。
友紀さんが悔しさを滲(にじ)ませる。
「娘の命を馬鹿にされているようで……。悔しくてたまりませんでした。たくさんの遺族が飲酒事故の危険性を訴え、法律まで変えてきたというのに、なぜ裁判所はこのような判断ができるのか理解できません。『司法』ではなく『死法』です」
悪質事故に対する厳罰化を求める被害遺族の声を受け、’01年の刑法改正で新設された「危険運転致死傷罪」。飲酒により人を負傷させた者は15年以下の懲役、死亡させた者は1年以上の有期懲役に処するとされる。しかし今回の件のように死亡事故を起こしても、「危険運転致死傷罪」で裁かれないケースがかなりあるのだ。
交通事故問題に詳しい、藤本一郎弁護士はこう語る。
「『危険運転致死傷罪』は犯罪成立のための要件が厳密に決められており、有罪にすることは大変難しいと言わざるを得ません。検察官や裁判官は、酒を飲んで重大事故を起こしたことが事実でも、起訴したり有罪にすることに慎重になってしまうのです。一般の人の認識とかなりずれていると言えるでしょう。万一被害に遭われた場合は、早めに検察官に訴えるなどの行動を起こすことが重要です」
今回の事故の前日は「母の日」だった。恵果さんは、友紀さんにお祝いの食事をご馳走する計画を立てていたという。
「母の日には私を笑顔にしようと友人たちがお花などを贈ってくださいます。でも、私は母として、あの時こう動いていたら裁判は良い方向に行っていたのではと、自分を責める毎日です」(友紀さん)
加害者はとうに出所している。しかし、遺族への直接謝罪はない。愛娘の命を奪った事故は、8年経った今でも友紀さんを苦しめ続けている。
『FRIDAY』2023年6月2日号より
取材・文:柳原三佳(ジャーナリスト)