マイカー水没、真夜中に鳴り響くクラクション… 台風直撃のオーナーが語る「被害車両の現実」
2022.10.28(金)
「夜中の3時半頃でした。2階の部屋で寝ていると、外で車のクラクションが鳴り響いているのに気づきました。何があったんだろう? と思って窓を開けると、アパート前の駐車場に停めてあった車のライトが、暗闇の中、点いたり消えたりしているんです。え? と思って目を凝らすと、私や妻の車もふくめ、駐車場の車が全て水没していました。たぶん、浸水の影響で車の電気系統がショートしたんでしょう、あの光景は本当に不気味でした」
そう振り返るのは、静岡市葵区の鳥坂地区に住むAさんです。
以下は、少し水位が下がった午前5時頃、Aさんが撮影したというマイカー(トヨタ ・プリウス/2018年式)の状況です。明らかに電気系統に故障が起こっている様子が見て取れます。
(*動画にクラクションの大きな音が記録されています。視聴される際は音量にお気をつけください)
9月23日夜から24日にかけて静岡県沖を通過した台風15号。静岡市内では24時間の雨量が400ミリ超を記録し、複数の川が氾濫。県内では広い範囲で浸水や土砂崩れが発生しました。
Aさんが住む鳥坂地区は河口から約7キロ離れていますが、浸水の深さが一時2メートルを超えた箇所が複数あったといいます。
Aさんのアパートも浸水しました。ただし、2階が居室だったため幸い無事でした。
「私たち夫婦の車はいずれもハンドルの高さまで水が上がっていたようです。2台ともハイブリッド車で、水濡れによる漏電などが怖かったので、翌日、水が引くまで近寄らないようにしました。前日から特別警報は出ていたんですが、ここまで水が上がって来るとは思わず、車の避難は考えませんでした……」(Aさん)
一瞬にして車を飲み込んでしまう洪水(タウ提供)
■車両保険もなく…、後悔先に立たず
一夜明け、水が引いた後、周囲に残されたのは泥だらけの車でした。
Aさんは振り返ります。
「まず、車のドアを開けようとしましたが、電子キーが全く作動しませんでした。一瞬焦ったのですが、キーの中に収納されている『レスキューキー』を使って、なんとか手動で開けることができました。さすがにハンドルの高さまで水没するとエンジンもバッテリーもやられてしまうので、車を動かすことはできません。車内にも泥水が入っていて、本当にショックでしたね」
水没したAさんのプリウス(2018年式)。ボンネットまで浸水した(タウ提供)
奥さんの車には災害でも支払われる一般車両保険をかけていたので保険会社に連絡をして車を引き取ってもらい、契約していた保険金を受け取れることがわかりました。しかし、Aさん自身は、自分の車に車両保険をかけていなかったといいます。
「いやあ、ショックでした。水没した車は下取りでもほとんど値段がつかず、廃車にするしかないと聞いていましたし、動かなくなった車を移動するにも、自分で引き取り業者を探すしかなく……。保険料を節約して、車両保険はいつかかけようと先延ばしにしていたことが、結果的に裏目に出てしまいました」
■水没車でも「50万円」の値がついた!
『もう廃車にするしかないか……』
と落ち込んでいたAさんに、朗報が入ったのは数日後のことでした。
「私の父がインターネットでいろいろと検索をし、水没車でも買い取ってくれる会社がいくつかあることを知って見積もりを依頼してくれていたのです。そのうちの一社が50万円で買い取ってくれると聞いたときは、正直驚きました」
実は、水没車や廃車車両など通常ならスクラップにされるような車でも、海外では日本車の人気が高く、十分に需要があります。
今回、Aさんの車を買い取った株式会社タウの広報部によると、同社はそうした損害車を国内で買い取り、独自に構築したインターネットシステムを通じて世界120か国に販売。産業廃棄物ではなく「リユース車」として循環させているため、日本では中古車として値段のつかない車でも「価値のあるもの」として買い取ることができるのだそうです。
Aさんは語ります。
「ほとんど値段はつかないだろうとあきらめていただけに、本当に嬉しかったですね。同じような思いをされている方にはあきらめず、見積もりを取ってみることをお勧めします。静岡県では今回の水害で2万台くらいの車が水に浸かったと聞きました。中古車もなかなか見つからず大変だったのですが、おかげさまでなんとか探すことができ、1か月以内に代わりの車を手に入れることができました」
引きとられた多数の水没車はいったん臨時のヤードに移動し保管されている(タウ提供)
■大規模災害時には自動車税の減免措置も
大規模災害によって廃車を余儀なくされたり、車を買い替えたりした場合、また、修理をした場合には、自動車税の減免を受けることができますので、自治体に問い合わせてみてください。
ちなみに、静岡県のWEBサイト<災害による自動車税環境性能割、自動車税種別割の減免>には以下のように記されています。
1)災害によって自動車が使えなくなったため廃車した場合
災害があった翌月から、抹消(廃車)登録をした月までの自動車税種別割が、月割りで減免されます。
(注)この場合、減免を受けるには、その自動車が解体されたうえで、抹消登録することが必要です。
2)災害にあった自動車を修理した場合
修理のためにかかった費用から、保険金、損害賠償金などを控除した金額が、自動車税の年税額を超えた場合、翌年度分の自動車税種別割が概ね50%減免される場合があります。
(注)4月1日から5月31日までに災害があった場合は、当該年度分の自動車税種別割が減免の対象となります。
洪水で水没し、泥にまみれた車内(写真:ロイター/アフロ)
■豪雨災害からマイカーを守るために
台風15号による大洪水から1か月が過ぎ、被災地もようやく落ち着きを取り戻してきました。しかし、床上浸水に見舞われた家屋では今も以前の暮らしに戻れず、大変な状況が続いています。
また、水没した車の引き上げ作業もまだ完了しておらず、Aさんの話にもあったように、静岡県内では中古車の需要が高まっているため、新しい車が入手できず苦労されている方も多いようです。
車が使えないことは被災者にとって大変不便で、災害復旧の遅れにもつながりかねません。
今回、2台の車の水没、廃車という被害を受けたAさんは、その教訓を踏まえこう話してくださいました。
「とにかく、警報が出たら、車だけでも水没しない場所に早めに避難させる、それに限りますね。大雨が降り出す前に行動すべきです。そして、保険です。もちろん、私も今度の車にはちゃんと車両保険をかけました。保険料は高くなりましたが、最近の異常気象を見ていると、いつ何が起こるかわかりませんからね」
10月27日には、フィリピンの東海上で季節外れの台風22号が発生したという情報が入ってきました。万一、日本で警報が出るようなことがあれば、早めの対応を心がけましょう。
住宅は動かすことができませんが、車は移動が可能です。せめてマイカーの水没だけでも食い止めてください。