山上徹也容疑者が2年前に読んでいた私の記事、交通事故記事に何を感じたのか
凍結されたツイッターアカウントでツイートされていた2本のレポート
2022.7.27(水)
7月19日、安倍晋三元総理大臣を狙撃した山上徹也容疑者(41)のツイッターアカウントが凍結されました。
●『山上容疑者のツイッター凍結 「憎悪や攻撃誘発禁止」の規約に違反?』(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASQ7M6DYRQ7MPTIL00W.html)
『朝日新聞』(上記)によれば、そのツイートは2019年10月の初投稿から、2022年6月30日までの間に1363件にのぼっており、「憎悪や差別、新たな攻撃を引き起こしかねない投稿」を禁じているツイッター社により、規約に違反したと判断されたようです。
その数日後、知人からこんなLINEが届きました。
『山上容疑者のツイッターがアップされているサイト(https://togetter.com/li/1917657)を見ていたら、三佳さんの記事が2つツイートされてました!』
一瞬、驚きました。凍結されるようなツイッターアカウントに私の記事が? そもそも、山上容疑者がどんな記事に関心を寄せていたのか、まったく想像ができなかったからです。
知人からのLINEには、山上容疑者のツイッターのスクリーンショットも添えられていました。そこにはたしかに、私が2年前に書いた「Yahoo!ニュース個人」の記事のタイトルがあったのです。
山上容疑者がツイートした2つの記事
山上容疑者のアカウントに書き込まれたツイートは、主として統一教会に対する批判や政治的な問題、社会への不満のような書き込みが大半でした。そんな中、2020年10月21日、19時23分、彼は珍しくコメントなしで、私(柳原三佳)が執筆した以下の記事を2本連続でツイートしていました。
まず1本目はこの記事です。
●『アクセルの踏み間違い、それとも車の異常? 池袋暴走事故裁判から、筆者が思い返す24年前のある死傷事故』(2020/10/16)Yahoo!ニュース個人(https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20201016-00203151)
そして、その17秒後、今度はこの記事が、同じくコメントなしで紹介されていました。
●『アメリカで起きたレクサス暴走死亡事故 緊迫の通話記録と「制御不能」の恐怖』(2020/10/21)Yahoo!ニュース個人(https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20201021-00203874)
「山上容疑者のものとされるアカウントの全ツイート」にあった筆者の記事に関するツイート
おそらく山上容疑者は、21日に公開された『アメリカで起きたレクサス暴走死亡事故……』の記事を読み、本文中にリンクされていた『アクセルの踏み間違い、それとも車の異常?…』という記事も読み、その上で、先に16日付の記事を、続いて21日付の記事をツイートしたのでしょう。
2つの記事に共通する「家庭崩壊」と「大組織との闘い」
山上容疑者がツイートした1本目の記事は、熊本で起こったタクシー(トヨタ・コンフォート)による死亡事故を取り上げたものでした。
詳細については記事をお読みいただければと思いますが、死亡事故を起こしたタクシー運転手は、事故直後から一貫して「車の不具合が事故の原因だった」と必死で訴えたにもかかわらず聞き入れられることはなく、結果的に「業務上過失致死(当時)」の罪に問われ、有罪判決を受けました。
1996年5月、熊本で死傷事故を起こしたタクシー(事故の「加害者」となったタクシー運転手Oさん提供)
この事故で自身も半身まひや言語障害などの重度後遺障害を負った男性は、タクシー運転手という仕事を失い、たちまち経済的な困窮に陥りました。そして、まもなく離婚。妻は2人の幼い娘を連れて家を出、家庭は崩壊してしまったのです。
次に彼がツイートしたのは、アメリカ・サンディエゴのハイウェイで起こったレクサスの暴走事故を取り上げた記事でした。
こちらは、現役のハイウェイ・パトロール警官が運転するレクサスが、アクセルが戻らなくなるというトラブルに見舞われたケースで、記事中では、その緊迫のやり取りが記録された実際の音声も紹介しました。
最終的にこの警官は車を制御することができず、高速度のまま道路から飛び出して激突。同乗していた一家全員が死亡するという悲惨な結果となったのでした。
山上容疑者は2つの記事に何を感じたのか?
実は山上容疑者がツイートしたこの2本の記事は、私が特に強い思い入れを込めて問題提起したものでした。
車の欠陥や整備不良が原因で事故が起こったことが疑われるケースであっても、現実には大手自動車メーカーを相手にそれを立証することは極めて難しく、警察もほとんど真実を追及しようとしません。その結果、ハンドルを握るドライバーの不法行為(=過失)として一方的に処理されてしまう……、その恐ろしさを、実際の事故事例を取材して取り上げたのです。
特に、自動運転のシステムが進歩を続ける自動車業界において、この問題は今こそ真正面から議論されるべきだと考えていただけに、数ある記事の中から山上容疑者がこれらの記事に着目し、ツイートという形ですくい上げてくれていたことは、執筆者としては率直にありがたく感じました。
一方、この2つの記事に共通するのは、理不尽な出来事をきっかけに、家庭が崩壊してしまう、という切ない現実でした。
山上容疑者は、巨大な力に対して声を上げることができないまま悲しい結果を招かざるをえなかった当事者たちの運命に自分の境遇を重ね合わせ、ふと心を寄せたのでは……。
もちろん、それは私の推測に過ぎないのですが。
いずれにせよ、山上容疑者は、2年前なぜ私が書いたこの2つの記事に目を留めたのか。そして、この問題に対してどのような意識を持ち、何を目的にツイートしたのか……。
機会があればぜひ聞いてみたいと思っています。