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「交通事故の悲惨さ知って」遺族が小学校に贈った本に込めた願い

2022.1.13(木)

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「交通事故の悲惨さ知って」遺族が小学校に贈った本に込めた願い

 1月10日は「成人の日」。今年も全国で華々しく成人式が開催されました。

 ところが、その翌日に必ず報じられるのが、一部の新成人たちによる常識を逸した振る舞いです。

 私も、偶然通りかかった成人式会場近くで、真っ白い羽織を着たノーヘルの若者が、爆音をまき散らし、蛇行しながら走る危険なバイクとすれ違いました。

 各地では実際に唖然とするような交通事故も発生しており、もはや「悪ふざけ」で済まされるレベルではありません。いったいなぜこんなことが起こるのかと、暗澹たる気持ちになってしまいます。

 まずは、ごく一部ですが、成人式直後の報道をピックアップしてみます。

今年も各地で目立った新成人の飲酒運転事故

●はかま姿の20歳、無免許で酒気帯び運転…道交法違反容疑で現行犯逮捕
(読売新聞オンライン:https://www.yomiuri.co.jp/national/20220111-OYT1T50022/)

 埼玉県の新成人(20)が、無免許、しかも酒気帯びで車を運転し、道路交通法違反で逮捕。大事故が起こる前に捕まったのは不幸中の幸いでしたが、無免許で運転するなど論外です。

●飲酒運転で事故 新成人逮捕 9日に大分市の成人式出席
(FNNプライムオンライン:https://www.fnn.jp/articles/-/296357)

 大分県では、成人式に出席した19歳の少年が、酒を飲んで乗用車を運転中、前車に衝突し現行犯逮捕されました。一歩間違えば大事故になっていた可能性があります。

●成人式後に飲酒運転か19歳逮捕 兵庫・たつの、対向車に衝突
(共同通信:https://nordot.app/853297225156870144?c=39546741839462401)

 兵庫県でも成人式帰りの新成人(19)が、飲酒運転で右折待ちの対向車に衝突する事故を起こし、現行犯逮捕されています。

 一方、徳島県では、新成人(20)自身が大けがを負う事故も発生しました。

●新成人7人が軽トラックの荷台に乗ったまま走行か 転落した男性(20)が重傷
 徳島(ABCニュース:https://www.asahi.co.jp/webnews/pages/abc_13586.html

 なんと、軽トラックの荷台に高校の同級生6人を乗せて走行中、一人が転落。脳内出血や脳挫傷の重傷を負ったというのです。運転者はもちろん、同乗者もこうした行為が禁止されていることを知っていたはずですが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか。

 19~20歳と言えば、皆、普通免許を取ってから日の浅い初心者ドライバーのはずです。ただでさえ運転が未熟なのに、酒を飲んだり、定員をはるかに超えた同乗者を乗せたりするというのは、いったいどういう神経なのか? 「車を運転する」ということの責任、そして事故後の現実を、あまりに甘く見ていると言わざるをえません。

アメリカでは未成年、初心者ドライバーに厳しい規制が

 たとえば、アメリカのカリフォルニア州の道交法では、未成年者および免許取得1年未満のドライバーに、日本にはない厳格な法規制を設けています(*カリフォルニア州での免許取得最低年齢は16歳。成人年齢は18歳/翻訳協力 Jun Jim Tsuzuki氏))。

●深夜(23時~5時)の運転禁止
●20歳以下の同乗者の禁止(ただし、保護者、25歳以上の免許取得者、有資格運転指導員が同乗している場合を除く)
●未成年者(18歳未満)の運転中の携帯電話の使用は禁止(成人は、ハンズフリー装置を使えば携帯の使用は認可されている)

 春に向けてのこの時期は、免許取りたての若者による交通事故が増える季節です。特に、複数の友人を乗せ、カッコをつけて無謀運転をするケースが散見されますので、家族の中に初心者ドライバーがいる方は、くれぐれも他人を同乗させないよう、そして初心者の友人の車には、誘われても安易に同乗しないよう、注意しておくことが必要です。

 また、2022年4月1日から、成人年齢が18歳に引き下げられますが、冒頭のような新成人たちの車への向き合い方を目の当たりにすると、つくづく、免許を取得する前からの、「加害者」の視点に基づく、厳しく、リアルな交通教育の必要性を痛感します。

「事故の悲惨さ知ってほしい」未来のドライバーに託した思い

 実は、昨年末、こんな記事が新聞によって相次いで報じられました。

●『輪禍防止願い小学校に本寄贈 遺族名乗る匿名の人から 西胆振』(北海道新聞/2021.12.25:https://www.hokkaido-np.co.jp/article/627241

●【交通事故 悲惨さ知って 遺族 小学1000校に本 匿名で寄贈=北海道】(読売新聞/2021.12.30)

読売新聞2021年12月30日の紙面

読売新聞2021年12月30日の紙面

「北の交通事故遺族」を名乗る遺族が、『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語』(講談社)という児童書を、北海道内の全小学校に寄贈したというのです。

『読売新聞』の記事から、一部抜粋します。

〈(「北の交通事故遺族」を名乗る人物が)交通事故で家族を亡くして悲しみに暮れていた時にこの本を読み、「子供の頃から交通事故についてしっかり考えていれば、事故を起こさない大人に育つのではないか」と思うようになったという。10月に約1000冊を自費で購入。「免許を取得できる年齢になった時、交通事故の悲惨さを少しでも思い出してほしい」と、道教育委員会のホームページなどで小学校を調べ、12月上旬に郵送した〉

 実はこの本、筆者が2013年に講談社から出版した一冊でした。

柴犬マイちゃんへの手紙

 2010年12月26日、東京の田園調布で、いとこ同士の9歳と6歳の男児が亡くなった事故のことを記したノンフィクションです。

 クリスマスに祖父母の家に遊びに来ていた2人の男の子は、この夜、マイちゃんという柴犬のお散歩を、大好きなおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に楽しんでいました。

 しかし、その幸せな時間は一瞬で奪われてしまいました。

 4人が横断歩道の前で信号待ちをしているとき、ラップ音楽に合わせてジグザグ運転をしていた車が、突然、歩道に突っ込んできたのです。

 この事故で、2人の孫と歩道に立っていた祖父母も、全身を骨折するなどの重傷を負いました。

 車を運転していた男は、事故の1カ月前に20歳になったばかりの新成人でした。「ふざけた運転をして、同乗の友達を喜ばせたかった」そう供述していたといいます。

2人の男の子が亡くなった田園調布の事故現場2人の男の子が亡くなった田園調布の事故現場(『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語 』より)

2人の男の子が亡くなった田園調布の事故現場(『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語 』より)

 この加害者はその後、危険運転致死傷罪で起訴されましたが、刑事裁判の途中で訴因が「過失」に変更となり、2012年、結果的に懲役7年の実刑判決が言い渡されました。

 彼はすでに刑を終え、普通の暮らしに戻っていることでしょう。

 しかし、事故で亡くなった2人の男の子は、永遠に戻ってくることはありません。

柴犬のマイちゃんと、事故の犠牲になった2人の男の子が亡くなる前夜にマイちゃんに書いた手紙(筆者撮影)

柴犬のマイちゃんと、事故の犠牲になった2人の男の子が亡くなる前夜にマイちゃんに書いた手紙(筆者撮影)

どうか事故を起こさないドライバーに・・・

 昨年12月、道内の各小学校に送られてきたというこの本には、「北の交通事故遺族」と名乗る人物から、先生に向けてのこんなメッセージカードが同封されていたそうです。

【私は『柴犬マイちゃんへの手紙』を読んで、「もし、加害者が小学生の時にこの本を読んでくれていたら、事故は起きなかったのではないだろうか?」と思いました。

 子どもたちも数年たてば、すぐにバイクや車の運転免許を取れる年齢になります。

 小学生のうちから交通事故の悲惨さを知り、ハンドルをにぎったその瞬間から重い責任が伴うという認識を持つことは、とても大切なことではないでしょうか。(中略)

 私はこの本を通して、子供たちの心の中に、相手の立場を思いやれる想像力を、育ててほしいと強く願っています。】

「子供の頃から交通事故についてしっかり考えていれば、事故を起こさない大人に育つのではないか・・・」

「北の交通事故遺族」さんの切実なメッセージは、『柴犬マイちゃんへの手紙』で取り上げたご遺族の強い思いでもあります。

 本を寄贈してくださったことに感謝しつつ、その思いが、これから大人になってハンドルをにぎるであろう子どもたちの心に届くことを願いたいと思います。