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「妻はなぜ、横断歩道で命を奪われたのか…」遺族が動画で伝えたかったメッセージ

2021.12.7(火)

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「妻はなぜ、横断歩道で命を奪われたのか…」遺族が動画で伝えたかったメッセージ

 12月5日、『交通事故ゼロを目指す会』が立ち上げたYouTubeチャンネルに、1本目の動画がアップされました。
 タイトルは、『横断歩道での死亡ひき逃げ なぜ不起訴? 交通事故ゼロを目指して』です。

 4分43秒に編集された動画には、事件現場にたたずみ、発生直後からの経緯をとつとつと語る夫の姿、横断歩道上での事故の危険性を示す具体的なデータ、関連する道交法の解説や事故抑止に馳せる遺族の思いなどが、コンパクトにまとめられています。

★動画『横断歩道での死亡ひき逃げ なぜ不起訴?交通事故ゼロを目指して』

事故で亡くなった岡田登思子さん(右)と夫の外志さん(岡田さん提供)

事故で亡くなった岡田登思子さん(右)と夫の外志さん(岡田さん提供)

■横断歩道で歩行者が死亡する事故が多発

 この動画を公開した、岐阜市の岡田外志さん(83)は語ります。

「妻が信号のない横断歩道を横断中に亡くなってから、もう7年半が経ちました。私たち遺族はこれまで、できることはすべてやってきたと思っています。何度も検察庁に出向き、犯人を起訴して欲しいと直接お願いするとともに、記者会見を開いてメディアに訴え、署名活動を行い、検察審査会にも申請を出しました。でも、未だに起訴には至っておりません。ひき逃げの犯人は特定されているのに、遺族から見れば殺人と同じなのに……、相手は何の罰も受けていないのです」

 すでに「ひき逃げ」の時効(7年)は過ぎ、自動車運転過失致死の時効(10年)も目前に迫っています。
 そんな中、連日のように、横断歩道上で悲惨な交通事故が起こり続けている現実を目の当たりにしていた岡田さんは、妻と同じような思いをする被害者を一人でも減らしたいという強い思いに駆られたといいます。

妻の登思子さんは、この横断歩道を横断中、左から一時停止をせずに走ってきた車にひき逃げされた(筆者撮影)

妻の登思子さんは、この横断歩道を横断中、左から一時停止をせずに走ってきた車にひき逃げされた(筆者撮影)

「警察庁によれば、2015年から2019年までの過去5年間に、横断中の歩行者と自動車の衝突による死亡事故は4278件発生し、そのうち、なんと45%にあたる1893件は、横断歩道上、もしくはその近辺で起こっていたそうです。こんな危険な状況を、いったいどうすればよいものかと考えあぐねていたとき、知人に『世間に広く訴えたいなら、今は絶対に動画が効果的』と強く勧められました。そこで、今回、試行錯誤しながら初めてこのような動画を作成し、多くの方に見ていただこうと思ったのです」

警察庁のサイトより抜粋

警察庁のサイトより抜粋

■信号のない横断歩道も歩行者優先!

 岡田さんが公開した動画の中では、JAF(日本自動車連盟)が行った実態調査の結果も取り上げられています。それによると、『信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとしている場面で、約7割のクルマが一時停止していないことが判明した』というのです。

●信号のない横断歩道について(JAFのサイト)

 また、妻の登思子さんが亡くなった2年後の2016年、実態調査に先駆けて行われた「交通マナー」に関するアンケート調査では、「信号機のない横断歩道で歩行者が渡ろうとしているのに一時停止しないクルマが多い」と答えた人が、約86%にものぼったそうです。

 日本国内のドライバーが、いかに「信号機のない横断歩道」を軽視しているかが、はっきりと表れた結果と言えるでしょう。

ウォーキング中の事故。この横断歩道を渡れば、自宅はすぐそこだった(筆者撮影)

ウォーキング中の事故。この横断歩道を渡れば、自宅はすぐそこだった(筆者撮影)

 岡田さんは今回の動画の中で、「信号のない交差点であっても、歩行者優先」という根本的なルールを、ハンドルをにぎる多くのドライバーに改めて伝えたかったと言います。

「この動画を見て、信号のない横断歩道を含め、横断歩道では歩行者が優先であること、そして、それを守らないのは法律違反であることを、ぜひ認識していただきたいのです。さらに一歩踏み込んで、日本で横断歩道での交通事故が減らないのは、違反を取り締まらない、横断歩道上でのひき逃げを罰することすらしない司法にこそ問題があるのではないか? という私たちの疑問や怒りも込めたつもりです。妻は思いやりのある優しい女性でした。きっと彼女も、一件でも交通事故を減らしたいと願っているはずです。ぜひ、この動画を皆さんにシェアしていただき、メッセージが広く伝われば幸いです」

『道路交通法第38条』には、

「ドライバーは、常に歩行者又は自転車が安全に横断歩道又は自転車横断帯を渡れるように保護しなければならない」

と明記されています。

 警察庁をはじめ、各都道府県警でも、信号機のない横断歩道での事故の撲滅を広く呼び掛けています。

 当たり前のことですが、「横断歩道等あり」を示す路面標示や道路標識が目に入ったら、横断しようとしている歩行者がいないかをしっかりと確認してください。
 もし、渡ろうとしている歩行者が見えたら、停止線または横断歩道の直前で必ず一時停止をして渡り終えるのを待ちます。

 歩行者等が渡ろうとしているのかどうかが判断できないときでも、速度を落とし、いつでも止まれるように徐行してください。

 また、警察庁では、『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造(もぐろふくぞう)が登場するインパクトのあるチラシも公開しています。
 ぜひ、岡田さんの動画と合わせて、内容をチェックしてみてください。

警察庁のサイトより抜粋

警察庁のサイトより抜粋