東京2020開幕で一般道の交通量増加 愛娘亡くした遺族「ドライバーは普段以上の安全運転を」
2021.7.24(土)
7月23日に開会式を迎えた東京2020大会。これに伴い、首都高速では午前6時から午後10時までの間、マイカー利用の乗用車や軽自動車、それに二輪車の通行料金を1000円上乗せしています。
対象期間は、オリンピック、パラリンピックが開催される7月19日(月)~8月9日(月)、8月24日(火)~9月5日(日)の計35日間で、障害者手帳を所有する人が運転、もしくは同乗する車と、中型車、大型車、特大車(トラックやバス)は対象外です(以下参照)。
●首都高の夜間割引・料金上乗せについて
五輪開催中、首都高では一律1000円の値上げを実施し、交通量を抑える取り組みが実施されている(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
想定通り、19日に1000円の値上げが始まると、その時間帯の首都高はガラガラになりました。
数百キロという長い区間ならともかく、「わずかな距離を移動するために1000円も余分に取られるなんてもったいない」というドライバーが多いということでしょう。
ところが、首都高の流れはよくなった代わりに、一般道ではあちこちで大渋滞を招いているようです。
普段、首都高を使っている車が一気に一般道へと流れ込んでくるのですから無理もありませんが、ドライバーたちからは早速、困惑の声が上がっているようです。
昼間は1000円高くなるが、逆に夜間は5割引きとなる(東京2020大会のいポータルサイトより)
こうした状況下で、いつも以上に危険にさらされているのは、日中、交通量が増えた一般道を通行しなければならない歩行者や自転車ではないでしょうか。
そこで、交通事故遺族の立場から安全への提言などの活動に取り組まれている佐藤清志さんに、オリンピック開催期間中のリスクについて、お話を伺いました。
■夏休み中の子どもたちを、交通被害から守りたい
――東京2020大会の期間中、一般道の交通量の増加が問題になっています。佐藤さんはこの状況をどのようにとらえておられますか。
佐藤: いま、一番心配されるのは、子どもたちの夏休みとタイミングが重なっていることです。とにかく、交通被害から子どもたちを守らなければなりません。東京2020大会開催を成功させるために、子どもの命が奪われるようなことだけはあってはならないと思っています。
――昨年、新型コロナウイルスの影響で学校が休校になったとき、日中に子どもが死亡したり重傷を負ったりする痛ましい事故が相次ぎました。学校がお休みで、しかも交通量が増えれば、それだけ「事故の危険性が高まる」ということになりますね。
佐藤: 一般道の車の量が増えることで、車は走りづらくなって速度超過は減り、重大な被害は減少する……と言いたいところですが、渋滞によるイライラや焦りを感じながらの運転、また、先を急ぐあまり脇道へ侵入するなど、逆に事故が増えるのではないかと心配しています。ドライバーの方々には、東京2020大会期間中は、普段なら学校の中にいる子どもたちが、日中も外にいるのだということを、ぜひ意識していただきたいと思います。
東京2020大会開催中、東京をはじめ全国各地の教師会場付近では「専用レーン」や「優先レーン」等の交通規制が行われ、違反をすると反則金や違反点数の加算が行われる(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
■運転中の競技応援、「ながら運転」に要注意!
――今回は、首都高の値上げだけではなく、東京2020大会関係車両以外の通行を禁止する「専用レーン」や「優先レーン」の規制もおこなわれています。うっかり違反してしまうと、普通車の場合、違反点数1点、反則金6000円が科されてしまうので、ドライバーにとってはかなりのストレスです。そのぶん、周囲の車や歩行者、自転車などへの注意が散漫にならないよう気をつけなければなりませんね。
佐藤: 本当にそうですね。それに加えて、東京2020大会開催中は、車載テレビやスマホなどで競技の進行に夢中になってしまう人がいるかもしれません。ドライバーとしては、「ながらスマホ」や「わき見運転」も要注意です。
――運転しながらの応援は、厳に慎まなければなりませんね。
■大会誘致決定後、都内で増加した大型車による事故
佐藤: 実は、2013年に東京でのオリンピック開催が決まってから、大型の運送関連車両が都内を多く走るようになり、それに比例して交通被害、特に子どもの交通死亡被害が目立って起こったことがありました。こうした現実を受け、警視庁は当時、「交差点アイコンタクト運動」なるものを展開し始めました。それから数年のときが流れ、今度は「横断歩道の前で止まらない車が多い」ということが大きな問題になり、最近は歩行者に対して、再び「手上げ横断」を推奨するようになっています。
――でも、歩行者がいくら手を上げたり、アイコンタクトをしたりしても、横断歩道の手前で車が確実に止まってくれなければ、事故は避けられませんよね。
佐藤: おっしゃる通りです。私の娘(当時6歳)も青信号を守って横断歩道を横断中、一時停止をせずに左折しながら突っ込んできたダンプに轢かれ、命を奪われました。交通弱者を守るのは基本的には車の方です。今、オリンピック開催という特殊な状況下で、ドライバーの方々もさまざまな規制を受けて大変だと思いますが、何といっても危険なのは「交差点」ですので、こういうときだからこそ、どうか細心の注意をして運転していただきたいと思います。
佐藤さんの長女・菜緒さん(当時6歳)が青信号の横断歩道を横断中、左折ダンプに轢かれた東京・品川の事故現場(筆者撮影)
■オリンピック開催中に交通被害を生まないために
――とにかく、お子さんのいらっしゃるご家庭では、東京2020大会が開催される今年の夏休みは、道路交通の状況もいつもとは異なるということを、お子さんと一緒に語り合い、認識しておくことも大切かもしれません。
佐藤:東京2020大会の運営を円滑に行い、成功させることが大切なのはわかります。しかし、交通被害への注意啓発もなされるべきです。個人的には、今回のオリンピックが無観客開催になった今、当初の予定通りの渋滞対策が必要なのか疑問に感じていますが、下道の交通量などを常に確認しながら、市民が規制による交通被害の犠牲になることのないよう、そして、国際社会に日本の道路交通状況を見られて恥ずかしくないよう、足元の交通安全対策も気を抜かないでいただきたいと思います。
――今、新型コロナウイルスの感染拡大で病床数もひっ迫しています。万一、交通事故でけがをした場合、受け入れ病院が見つからず、十分な治療が受けられないという心配もあります。こうした視点からも、交通事故が起こらないよう、ドライバーとしてぜひ注意をしていきたいと思います。ありがとうございました。
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