「息子が、今、脳死状態です…」台湾でのバイク事故。母が求める情報提供
3/15(月)
「はじめまして。『交通事故』と検索して柳原さんの記事を拝見しました。私のように苦しんでいる方が多く、心が痛いです。うちの息子も事故に遭いました。
『2021年2月21日、台湾、日本人留学生、バイク事故』で検索すると、ニュースが出てきます。相手の方は即死、息子は重傷と報じられていますが、現在、脳死の状態です」
3月8日、私のもとに横浜市中区の林里美さん(51)という方からメールが届きました。
台湾大学に留学して半年の長男・俊徳さん(19)が、現地でバイク同士の衝突事故に遭い、現在、台北の病院に入院中だというのです。
夫と次男を日本に残し、今、私一人で台湾に来ているのですが、台湾の知り合い、台湾大の先生方、留学生の生徒さん、台湾交流会の方、教会の方、通訳の方、病院の方々に感謝しても足りないくらいの親切な対応をしていただきました。
でも、現実として直視しなければいけないことがたくさんあり、毎日、毎日、怖くて、仕方ありません…。
コロナ禍の中、もちろん台湾も外国人の入国を規制しています。しかし、今回は緊急事態ということで、母親の里美さんだけビザを緊急発行してもらい、2週間のホテル隔離を条件に入国を許されたそうです。
俊徳さんの進行方向から見た事故現場(林里美さん提供)
■コロナ禍の入国規制、隔離期間中にICUで面会
メールを読んだ後、すぐにLINE電話を使って直接お話しました。
里美さんは電話口の向こうで、時折気持ちを抑えきれず、号泣しながら現状を語りました。
「息子はすでに全身の組織が壊死を起こし始めていて、今は、生きているのが奇跡といわれている状態です。助かる見込みはないそうです。どうしてこんなことになってしまったのか、ほんの数秒、時間がずれていたら……と、そんなことばかりを考えてしまいます」
それでも、コロナ禍の今、息子さんに面会できるだけでも幸運だと言えるでしょう。
「台湾に入国後は、携帯電話を入手するところからはじまりました。外務省の方にSIMを購入して頂き、登録をしてもらい、台湾政府から毎日健康チェックが入るのです。また隔離期間はいろいろな注意点が出されましたが、とても親切に対応してくださいました。隔離中でもPCR検査を受けて問題なければ、2日間有効、1日2時間以内の外出を認めていただけたので、私はその時間を利用して病院に行き、息子に面会することができたのです」
あれほどの事故だったにもかかわらず、俊徳さんの携帯電話は無傷でした。
里美さんが受け取ったその携帯電話が、夜中にホテルで鳴り響くたび悲しみが押し寄せると言います。
「友達からのラインが入っているのでしょう。でも、パスワードが解らず、開けることすらできません。パソコンも見ることが出来ず、どうしたらいいか困っています」
台北の病院で出された俊徳さんの診断書。致命的な傷病名が列挙されている(林里美さん提供)
事故の状況はまだはっきりわかりません。外国での事故とあって、刑事手続きや保険のことなどがわからず、またコロナの影響で自由に動くこともできません。
里美さんは不安な思いを語ります。
「私たち夫妻は中国語がわからないため、何をするにも通訳が必要です。本当に大変です。昨日、万一に備え、葬儀社と搬送などの打ち合わせをしてきましたが、どうやって遺体を運ぶのか、何が必要なのか。日本に帰っても台湾にまた入国できるとは限らないので、どのような順序で何をやっていいのか、何もかもわからない状態です。なにより、息子は今も生きているというのに、こんなことをしなければならないなんて苦しくて、苦しくて、現実を受け止められません。誰にすがっていいか、本当にわかりません……」(里美さん)
■偶然、事故現場が撮影されていたYouTube動画
中国語が堪能だった俊徳さんは、昨年9月、台湾大学に入学したばかりでした。
日本と台湾の両国で運転免許を取得し、この日は、春節最後の休みを利用して、原付スクーターに乗って出かけたようです。現場は俊徳さんの大学の寮から30分の場所でした。
これが事故直後の現場です。双方のバイクが大きく破損しています。
衝突の衝撃で大破した俊徳さんのスクーター。台湾は右側通行で、この車線は俊徳さんの走行車線だった(林里美さん提供)
右側で転倒しているのが死亡したライダーの300ccのバイク(林里美さん提供)
台湾は日本と違って右側通行ですが、2台とも俊徳さんの走行車線に転倒していることがわかります。
しかし、今となっては当事者である二人に事故の状況を聞くことはできません。
「実は、亡くなった相手の方は『Suyo_Motodaily』というライディングの動画を公開しているYOUTUBERでした。偶然ですが、彼のチャンネルに事故現場の道路で撮影したシーンがアップされていたようです(https://youtu.be/j38PJSAqcIw)。私は怖くて見ることができませんが、ちょうど、2分11秒の地点辺りが、まさに今回の衝突事故が起こった現場だそうです」
この動画を見ると、たしかに現場で大破している事故車(YAMAHA R3)という300cc2気筒のバイクであることがわかります。(*筆者注 当初の画像がロックされて見られなくなっているようです)
一般道で明らかに制限速度をオーバーした走りを録画し、それを公開していることには疑問を感じざるを得ませんが、結果的に同じ場所でこうした重大事故が起こってしまったことは残念でなりません。
ただ、このYouTube動画はあくまでも事故があった2月21日以前に撮られたものです。
今回の事故時に、相手のライダーが何キロで走行していたのか、また、俊徳さんのスクーターがどのような走り方をしていたのかははっきりわかりません。
上の動画の中の一コマ。左のライダーが、今回の事故で死亡した本人。このカットの3秒後に通過する場所が、今回の事故現場となった(YouTube画面を筆者撮影)
里美さんは、3月15日の午後4時に台北の警察に出向く予定ですが、なぜ、この場所で、これほど激しい衝突が起こったのか、どんな些細な情報でも集まればという気持ちで、この事故のことを公開し、目撃者情報を募っていくことを決めたそうです。
以下は、里美さんが台湾から私に送ってこられたメッセージです。
「交通事故自体、他人事のような感覚でいました。息子は留学し、外国に住んでいるので、警察沙汰になったら即刻退学、及び日本に帰らなければならないという自覚は持っていたと思いますが、まさか交通事故に遭うとは思いもしませんでした。どうかみなさん、交通事故には気をつけてください。今の私たちは、とにかく、あの場所で、なぜこのような事故が起こったのかを知りたいのです。俊徳のスクーターはどこからきたのか? どうして、この場所に行こうとしていたのか? そして、相手の方はどんな走り方をしていたのか? 小さなことでも構いません。情報をお寄せいただければ幸いです。」
高校時代の俊徳さん(林里美さん提供)
<俊徳さんの両親からのメッセージ>
<目撃情報をお寄せください>