「青信号だった」と嘘をついた被告に禁固3年求刑【三島市バイク死亡事故】
2021/2/17(水)
2月15日、静岡地裁沼津支部で開かれた交通死亡事故の第5回公判。法廷には「被害者参加制度」を利用し、嗚咽をこらえながら、順々に意見陳述をする遺族の姿がありました。
最初に証言台に立った被害者の妻・仲澤知枝さんは、加害者の嘘により、各所から受けた理不尽な対応についてこう語りました。
静岡地裁沼津支部にて。亡くなった仲澤勝美さんの4人の子どもたち。左から長女、長男、次女、三女(筆者撮影)
■「被害者」なのに、「加害者」にされて
事故は、2019年1月22日、静岡県三島市で発生しました。 原付バイクで仕事先から帰宅中だった仲澤勝美さん(当時50)は、交差点で乗用車と衝突し、亡くなったのです。
この事故の経緯については、2019年から複数回にわたってレポートしてきた通りです。
『事故死した父の走行ルートが違う! 誤った捜査と報道を覆した家族の執念』(2019/6/3配信)
乗用車を運転していた被告人は、実際には赤信号無視で交差点に進入し、右側から青信号で走行してきた仲澤さんをはねたにもかかわらず、事故直後、「自分が青信号で進行中、対向してきた仲澤さんの原付バイクが突然右折をして衝突してきた」と説明。 警察はそれを鵜呑みにし、裏付け捜査をほとんどしないまま報道発表しました。 しかし、遺族の要請によって防犯カメラの映像など新たな証拠が見つかり、仲澤さんのバイクは交差する道を青信号で直進していたことが明らかになります。 そして、車を運転していた女性(当時46)は、過失運転致死罪で起訴されたのです。
子どもたちが幼かったころの仲澤勝美さん。子煩悩な父親だった(遺族提供)
■加害者扱いされた父、遺族を苦しめたSNS中傷や嫌がらせ
この日の公判では、妻の知枝さんに続き、次女のマリンさん、長男の勇梨さんも陳述を行いました。
まず、葬儀の直後から、真実の追求に向けて家族で懸命に動いたことについて、マリンさんはこう語りました。
父の無過失を信じて遺族が作成した目撃者捜しのビラ(遺族提供)
加害者がついた嘘は、自らの保身のみならず、結果的に「被害者」を「加害者」にしてしまいました。その結果、遺族が根拠のない中傷を受けることになったのです。
それだけではありません、「加害者」とされたことで、適正な損害賠償さえ受けられず、経済的にも大変追い詰められたと言います。
遺族の活動を報じる地元新聞(遺族提供)
■執行猶予を求める被告に対する遺族の思い
また、事故の前日、がんの手術を受けたばかりで入院中だったという長男の勇梨さんは、証言台で声を詰まらせながら、こう訴えました。
事故現場交差点。仲澤さんは右から左へ、青信号で直進中、信号無視の乗用車にはねられた(遺族提供)
■検察の求刑は禁錮3年。判決での裁判官の判断は……
この日、検察は「信号を確認するという容易で基本的な注意義務を怠った過失は大きい」として、被告の女性に禁錮3年を求刑しました。
一方、被告側の弁護士は、前回に引き続き、改めて執行猶予付きの判決を求め、5回にわたる刑事裁判は結審しました。
裁判が終わった後、被害者の長女・杏梨さんは私にこう話してくださいました。
「被告側の弁護士は、母と妹、弟の意見陳述が終わった後の弁論で、『被告の今の家の状況を考えたら、刑務所に入るのは酷すぎます。彼女は身も心もボロボロなんです』と主張しました。また、『赤信号無視の違反で死亡事故を起こし、裁判で一度でも否認したら実刑とか、ご遺族の処罰感情が強ければすべて実刑などというルールが存在しない限り、被告人に実刑が言い渡される理由はありません』『過失行為の悪質性は低く、見舞金も用意し、すでに社会的制裁も受けている』とも……。でも、亡くなった父は、被告の嘘によって一時は加害者扱いされたんです。それによって、私たち遺族がどれほど苦しんできたか……」
執行猶予を求める被告と、実刑を求める遺族の主張が、真っ向から対立する刑事裁判。
虚偽供述によって、加害者が被害者に事実無根の過失を擦り付け、自身の罪や賠償から逃れようとしたケースは、筆者がこれまで取材してきた事故の中にも多数ありました。
こうした行為が明らかになった場合、裁判官は刑事裁判でどのように評価し、判断するのでしょうか。
判決は3月15日、10時から言い渡される予定です。
(遺族提供)