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警察官まで…運転中に「スマホゲーム」で死亡事故 ながら運転だらけの危険な日本、どうすれば

2025.4.2(水)

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警察官まで…運転中に「スマホゲーム」で死亡事故 ながら運転だらけの危険な日本、どうすれば

■「ながらスマホ」事故遺族から届いたメッセージ

 そのメールが届いたのは、3月7日のことでした。

『今朝、Yahoo!ニュースで発信されていた滋賀県の事故の記事、「ガキがいっぱい歩いとる」と言い放ち、ながらスマホで信号無視 はねられた男児は今も意識不明(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース』を、大変な苦しさを感じながら読みました。

 交通事案は辛いので、深読みしないように意識していますが、やはり、「ながらスマホ」となると読み入ってしまいます。

 なぜ、同じような苦しみを抱える人が後を絶たないのでしょうか……、本当に悲しいです。世間に顔を晒して訴えたことは、何の抑制にもならなかったのかと、自問自答しています』

 メッセージをくださったのは、ご自身も大切なご家族を「ながら運転」による事故で奪われた直美さんです。

 7年前、「ながら運転」の厳罰化がおこなわれる前年に、私は以下の記事を発信しました。このとき、事故現場での取材にご協力くださったのが直美さんでした。

【ながらスマホ】来年から罰則強化 2年前、娘の命を奪われた遺族の思い(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース(2018.12.25)

 直美さんのメールはこう続きました。

『少しずつ刑罰が重くなってきてはいますが、道交法の中では被害者側の声が反映されず悔しいです。 ながらスマホ事案ということで、思わず三佳さんにメッセージを綴ってしまいました。 これからも被害者の声を届けていってください』

ながらスマホの車による岐阜県の死亡事故現場。見通しのよい直線道路にもかかわらず、事故は起こった(2018年、筆者撮影)

ながらスマホの車による岐阜県の死亡事故現場。見通しのよい直線道路にもかかわらず、事故は起こった(2018年、筆者撮影)

 事故は9年前の2016年4月に発生しました。車にひかれた猫を助けようとしていた20歳の女性が、走行してきた車にはねられたのです。加害者はなぜ、これほど見通しのよい直線道路で、前方に人がいることにまったく気づかなかったのか……。

 その理由について本人は「助手席に置いたスマホに気を取られて、前を見ていなかった」と供述しました。

 実は、この事故は当初、単なる「わき見」で処理されようとしていました。しかし、家族の訴えと加害者本人の供述によって「ながらスマホ」だったことが認められ、結果的に初犯の交通事故としては重い、禁錮9月の実刑判決が下されたのです。

 加害者は事故当時31歳、出産を間近に控えた女性でした。出産後、乳飲み子を家族に預け、刑務所に収監されたそうです。

 直美さんは語ります。

「ながらスマホ運転は、前が見えていない状態で車を走らせる行為です。この危険性をもっと強く訴え続けていたら、滋賀県の『ながらスマホ』事故は起こらなかったかもしれない。そして、航平くんが事故の朝、初めて履いたおろしたてのスニーカーは、今頃、いっぱい遊んで汚れていたはず……、そう思うと、自分の非力を責めます」

 連日のように報じられる「ながら運転」による重大事故。直美さんはそれらの報道にふれるたびに、自責の念に苛まれるというのです。

2024年3月11日、下校途中に青信号で横断歩道を渡っているとき、スマホを片手に通話中のトラックにはねられ脳挫傷の重傷を負った航平くん。1年経った今も意識不明で入院中だ(家族提供)

2024年3月11日、下校途中に青信号で横断歩道を渡っているとき、スマホを片手に通話中のトラックにはねられ脳挫傷の重傷を負った航平くん。1年経った今も意識不明で入院中だ(家族提供)

■現職警官までもが運転中にスマホでゲーム

 3月27日には、高知県から信じられないようなニュース(以下)が飛び込んできました。

過失運転致死事件 被告の元警察官 ゲームしながら車運転か|NHK 高知県のニュース

 2024年2月2月、高知県黒潮町の国道で、車が歩行者をはねて死亡させる事故が発生。加害者は高知県警の現職警察官(47歳/現在は退職)だったのですが、なんと、運転中にスマホのアプリでゲームに興じていたというのです。

 初公判で検察官は、以下の冒頭陳述を読み上げました(上記記事より)。

「被告は車のダッシュボードの上に固定したスマートフォンを操作し、ゲームアプリで遊びながら運転を継続した。画面が見えづらくなったことから位置を調整してよそ見をしていたところ、被害者に気づかずはね飛ばした」

 被告は事故直後の実況見分で、『車内の床に落ちたスマートフォンを拾い上げようとした』とウソをついていました。スマホを捜査した結果、ゲーム操作の履歴が発覚したため、結果的に自供に追いやられたようです。

 それにしても、スマホゲームに興じながら運転をすることなどできるのでしょうか……。いや、できないからこそ事故が起こるわけですが、ながらスマホ厳罰化から5年、6年と年月を重ねても、危険なながら運転が減るどころか、重大事故件数が過去最高になっています。このようなドライバーが一定数存在することに、恐ろしさを感じずにはいられません。

事故から1年、航平くんが事故に遭った滋賀県の事故現場では、ながらスマホ撲滅の啓蒙活動が行われた(家族提供)

事故から1年、航平くんが事故に遭った滋賀県の事故現場では、ながらスマホ撲滅の啓蒙活動が行われた(家族提供)

■スマホやカーテレビ、車の運転に必要なのか?

「ながら運転は、車のオートマ化と携帯電話がもたらした、便利さの上の最大の汚点かも知れません、横断歩道上で、なぜ重大な事故が続発しているのか、『前をよく見ていなかった』という供述の裏に、どんな真実が隠されてるのか……、捜査機関には徹底した捜査をしてほしいと強く思います。被害者遺族、家族は、加害者優先の世の中に幻滅しています」

 そう語るのは、福島県の坂本喜美江さんです。坂本さんは5年前、横断歩道を渡っていた長女の瞳さん(当時21)を滋賀県で発生した交通事故で亡くしました。

 加害者は捜査の中で「片手運転」を自ら認めていましたが、車内に2つあったスマートフォンの履歴捜査は行われないまま刑事裁判が開かれ、執行猶予判決が下されました。

<坂本さんの事故に関する記事>

『ながらスマホ』に捜査規定なし? 横断歩道で娘亡くした両親、5年経っても消えぬ疑問符(柳原三佳) - エキスパート - Yahoo!ニュース

坂本瞳さんが前方不注視の車にはねられ、亡くなった横断歩道。見通しのよい直線道路だ(遺族提供)

坂本瞳さんが前方不注視の車にはねられ、亡くなった横断歩道。見通しのよい直線道路だ(遺族提供)

 坂本さんが指摘するように、私たちの生活の一部となっている携帯電話やスマートフォン、またカーナビやカーテレビが、その利便性とは裏腹に、車の運転においてはどれほどの危険と被害を生んできたでしょうか。

 筆者が運転免許を取った1980年代にはオートマチック限定免許はなく、すべてマニュアルでの教習&試験でした。また、パワーステアリングではない車も多く、「ハンドルを切るのが重たい」と感じることも多々ありました。もちろん、当時はスマホもカーナビもカーテレビもありませんでした。

「ながら運転」によって、多くの被害者が生まれています。青信号を守っていたのに、渡り切れなかった子供たちが大勢います。こうした事故を根絶するには、車の運転時に集中力を欠く原因となるものを、車室内から徹底的に排除する方向で検討するという取り組みも検討すべきではないでしょうか。

 坂本さんは訴えます。

「娘をはねた加害者は大手自動車ディーラーの店長でしたが、運転中でもカーテレビが視聴できるよう改造されていました。カーナビやテレビを注視すると、人間の注意は薄れます。気がついたら事故が起こり、人の命を奪っていた……、というケースは多いと思います。ただ、飲酒やスピード超過ならば数値ではかれますが、ながら運転には基準がなく、本人の自白がすべてです。

 娘は横断歩道ではねられましたが、警察はながら運転を疑うこともせず、あっさりと捜査終了してしまいました。おそらく同様のケースはたくさんあると思っています。結果的に泣き寝入りするのは被害者です。『ながら運転』がいかに危険な行為であるか、その現実を踏まえたうえで、法務省でも捜査の有り方を再検討していただきたいと思います」

航平くんが事故に遭った現場で行われた「ながら運転撲滅」を呼びかける啓蒙活動(家族提供)

航平くんが事故に遭った現場で行われた「ながら運転撲滅」を呼びかける啓蒙活動(家族提供)