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「なぜこんな悪質事故が『過失』なのか…」【危険運転致死傷罪】制定後も続いた遺族の苦悩 #専門家のまとめ

2025.2.11(火)

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「なぜこんな悪質事故が『過失』なのか…」【危険運転致死傷罪】制定後も続いた遺族の苦悩 #専門家のまとめ

2月10日、「危険運転致死傷罪」の見直しに向けた法改正の検討が法制審議会に諮問された。「危険運転致死傷罪」は、飲酒運転や超高速走行による事故、赤信号無視といった危険な運転による事故を厳罰化するため、2001年に制定された。しかし、この法律が制定されたからと言って、こうした悪質事故がすべて同罪で裁かれてきたのか、といえばそうではない。一般市民の感覚では明らかな「危険運転」であっても、危険運転致死傷罪での立件には「適用条件」という壁が立ちはだかっていた。ごく一部ではあるが、過去の事案をまとめた。

ココがポイント

この判決文を読んだときは、まるで娘の命を馬鹿にされているようで、悔しく、悲しくてたまりませんでした

出典:柳原三佳 2023/2/21(火)

一升飲んでも平気な人もいる。だからお酒の量で危険運転を問うことはできない』と言われ、却下されたんです

出典:OBS大分放送 2025/2/7(金)

146キロというスピードは危険に決まっていると思うが、今の法律では危険運転と認めらなかった

出典:NHK 2025/2/10(月)

「ふざけた運転を続けた揚げ句、自動車運転の危険性を全く考えない極めて悪質な運転で事故を起こした」として自動車運転過失致死

出典:日本経済新聞社 2012/11/16(金)

エキスパートの補足・見解

 ここに挙げたのは私が出会った数々の悪質事故のごく一部です。飲酒や超高速走行、ふざけた運転の末に起こった重大事故で「危険運転致死傷罪」で裁かれなかったケースは枚挙にいとまがありません。2001年以降の事故の被害者遺族は25年前と違って、「危険運転」という罪名があるだけに、「なぜその罪に問われないのか?」という疑問にぶつかり、新たな苦しみを強いられてきたともいえるでしょう。

 上記「日本経済新聞」で紹介した、東京・田園調布の死亡事故では、加害者がハンドルでリズムをとりながら都内の幹線道路を蛇行して歩道に突っ込み、祖父母が重傷、一緒に散歩をしていた二人の孫が亡くなりました。本件は当初「危険運転致死傷罪」で起訴され大きく報道されましたが、判決は「過失」でした。結果的に「危険運転」に問われなかったことを、どれだけの人が認識しているでしょうか。

 このほかにも数えきれないほどの悪質事故が、納得できない理由で「過失」として処理されてきました。今回の法改正では明らかな「危険な運転」が正当に裁かれるよう、そして、被害者遺族がこれ以上の苦しみを強いられることのないよう、議論していただきたいと思います。