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一般道120キロ爆走で女児死亡させた医師に「執行猶予」、なぜ高級スポーツカーの運転手に“大甘判決”がまかり通る

2024.6.18(火)

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一般道120キロ爆走で女児死亡させた医師に「執行猶予」、なぜ高級スポーツカーの運転手に“大甘判決”がまかり通る

 6月4日、広島地裁福山支部で、2年前に起こった死亡事故の判決が言い渡された。

 本件は、加害者(当時36)が医師という職業だったこと、そして、高級外車のフェラーリで、一般道にもかかわらず時速120キロを出していたことなどから、多くのメディアが報じてきたが、判決が下された今、今度はその刑罰の“軽さ”に再び注目が集まっている。

「70キロオーバーで死亡事故なのに執行猶予」に憤りの声

 事故は2022年6月18日午後8時すぎ、広島県福山市の交差点で発生した。被告が運転する直進中のフェラーリと、交差点を右折しようとした対向の軽乗用車が衝突。軽乗用車に乗っていた女児(当時9)が車外へ投げ出されて死亡し、運転していた女児の祖父と現場近くを歩いていた歩行者が重傷を負った。

参考:<「自分の運転に過信があった」9歳の女の子死亡事故 スポーツカー医師に有罪判決 事故前から違反繰り返す>(FNNプライムオンライ 2024.6.4)

 判決内容を伝える報道によれば、裁判官は、

「指定最高速度の2倍以上の速度で走行させた過失の程度は大きい。当時9歳の被害者を死亡させ、2人に重傷を負わせた結果は重大」としながらも、「被害に遭った対向の軽自動車側にも不注意があった」として、過失運転致死傷の罪で、禁錮3年執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。

 この判決に対して、ニュースのコメント欄やSNSには、

「一般道で120キロが過失? どう考えても危険運転だろ」

「70キロオーバーで死亡事故を起こしても執行猶予で済むって?」

「こんな判決が出るなら、スピードの取り締まりなんて必要ない」

 など、疑問や怒りの声が相次いでいる。

「危険運転致死傷罪」は、飲酒運転や赤信号無視、制御困難な高速度での走行など、故意に危険な運転をして人を死亡させたりけがをさせたりしたドライバーを厳しく処罰するため、2001年に新設された。刑の上限は懲役20年で、懲役7年の「過失運転致死傷罪」と比較して大幅に重くなっている。

 ちなみに、自動車運転処罰法の第2条(危険運転致死傷罪)2項には、危険運転とみなされる要件のひとつとして『その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為』と明記されているが、一般道で100キロを超える常軌を逸した高速度で事故を起こしても、多くのケースで「直前までまっすぐに走れていた=制御できていた」のだから、危険運転には当たらないという判断が下されているのが現実だ。

大分でも…「一般道194キロ爆走」で死亡事故起こした運転手を過失運転致死罪で起訴

 2021年2月に大分市で起こった、時速194キロでの右直事故で、弟の小柳憲さん(当時50)を亡くした長文恵さんも、今回の執行猶予判決を報道で知り、どうしても納得できないという。

「非常に残念な判決です。法定速度の2倍を超える速度を出すことが、はたしてうっかりの『過失』でしょうか。新幹線のようにレールの上を走るのとは違います。一般道には歩道も交差点もあるのです。裁判長には、実際にそのスピードで一般道を走ってみてご覧なさいと言いたいです」

 大分の事故については2年前、以下の記事でレポートした。

<一般道を時速194キロで爆走して死亡事故、なぜこれが「危険運転」じゃない 無謀運転の犠牲となった被害者の遺族が訴え「過失ではなく危険運転で裁きを」>(JBpress 2022.9.11)

 購入したばかりのBMW(2シリーズクーペ)を運転していた会社員の男(当時19)は、制限速度60キロの一般道で「何キロ出るか試したかった」と思い、時速194キロまで出した。そして、対向右折車と衝突し、小柳さんを死亡させたのだ。

「広島の事故は外国車の大幅なスピード超過による右直事故ということですが、実は、私の弟が死亡した事故と類似しています。そもそも、皆さんは一般道で時速100キロを超える車が走ってくると考えて右折していますか? ブレーキが間に合わなくてぶつかったことも、車内の人間が外に放り出されたことも、すべて120キロものスピードが原因なのです」

警察は「危険運転致死罪」で送検したのに…

 捜査にあたった警察は男を危険運転致死罪で送検した。ところが、検察はそれよりも軽い過失運転致死の罪で起訴。その理由は、「被告は直線道路をまっすぐに走行しており、危険運転致死罪と認定し得る証拠がなかった」というものだった。

 長さんら遺族はこの判断にどうしても納得できず、悩んだ末に、再捜査を求めて署名活動を行い、検察庁へ要望書を提出するなど活動を開始。その結果、2022年12月、大分地検はより罪の重い「危険運転致死罪」へ、極めて異例といえる訴因変更をおこなったのだ。

 しかし、裁判は遅々として進んでいない。事故から3年と4カ月が過ぎた今も、公判前整理手続きに時間がかかっているらしく、公判日程は未定だという。

 長さんは語る。

「このような高速度を、もし『制御できている運転』とみなすならば、それは故意による殺人と同じです。制御できているのにぶつかるんですから。このような“快楽”を伴うスピード超過は、『過失』ではなく、『未必の故意』と捉えるべきではないでしょうか。私は危険運転の法律がおかしいのではなく、先例により、危険運転で起訴できるはずの事件の条文解釈の幅がどんどん縮小化されていると感じています」

 広島の事故では、加害者が日弁連に100万円の「交通贖罪寄付」*を行ったと報じられているが、こうした行為についても長さんは懸念を抱いているという。

(*交通贖罪寄付とは、交通違反や交通事故を起こした方々が、寄付を行うことで反省悔悟を示すことができるというものです。飲酒運転やスピード違反など、具体的な被害者がいない場合において、特に有効な情状立証手段となるものと思われます[日弁連交通事項相談センターHPより])

「お金さえあれば罪が軽くなる、という先例も作ってしまったのではないかと危惧します。正義とは、いったいどこにあるのか……。私は今、同様の事故の遺族とともに『高速暴走・危険運転被害者の会』を立ち上げ、活動を行っています。広島のご遺族とも、よろしければぜひつながっていければと思っています」

速度大幅超過でも直進安定性の高いスポーツカーなら危険運転じゃない?

 危険運転の法解釈については、これまでにもたびたび議論されている。速度超過による事故の問題については、2023年10月28日、衆議院内閣委員会で取り上げられている。

 この日、緒方林太郎衆議院議員は、大分で起こった194キロ死亡事故を事例として挙げ、法務省にこう質問した。

「一般道で、超高速運転する行為というのは、危険運転致死罪の『その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為』の構成要件に当たらないのでしょうか? どんなにスピードを出していても、前を正視してハンドルをきちんと握っていれば危険運転に当たらないと、そういうことなのですか?」

 これに対して、法務副大臣の門山宏哲氏は、「あくまでも一般論として」という前提で次のように答弁している。

「『進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為』とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状況で、自車を走行させるということを意味しているところでございますが、この要件に該当するか否かにつきましては、個別の事案ごとに証拠によって認められる事実、例えば、車両の構造性能、具体的な道路の状況、すなわち、カーブ、道幅など諸般の事情を総合的に考慮して判断されるものと承知しております」

*上記国会中継については、「衆議院インターネット審議中継」のサイト(発言者/緒方林太郎議員をクリック)から視聴可能。

 この答弁で私が注目するのは、副大臣答弁の中の「車両の構造性能」という言葉だ。つまり、かなりの高速度であっても、直進安定性の高いスポーツカーであれば直線道路をまっすぐに走行でき、結果的に「危険運転」とはみなされない可能性があるのではないか。

 ちなみに、冒頭で取り上げた事故の加害車両はフェラーリ、大分はBMW、そして、昨年レポートした現職刑事による75キロオーバー死亡事故(過失で処理)は、メルセデスベンツだった。

<刑事が一般道75キロオーバーで死亡事故、果たしてこれは「過失」なのか 片側一車線の県道を時速115キロ、遺族は「被告にはもう会いたくない」>(JBpress 2023.4.5)

 これら高級輸入車のスピードメーターは、いずれも250キロ以上刻まれており、その速度でも十分に走行できるポテンシャルを備えている。直線であれば、たとえ時速200キロでも、「進行を制御することが困難な高速度」とはいえない可能性が大だ。だからといって、日本の一般公道で、これを「危険」とみなさない解釈は適正なのだろうか。

一般人の常識からかけ離れた認識

 今、法務省では『自動車運転による死傷事犯に係る罰則に関する検討会』が開かれており、同省のサイトには、その目的について以下のように記されている。

〈近時、悪質・危険な運転行為による死傷事犯が少なからず発生し、そうした事犯に対する厳正な対処が重要な課題となっていることを踏まえ、交通事犯被害者遺族、刑事法研究者及び実務家を構成員とする検討会を開催し、悪質・危険な運転行為による死傷事犯に係る罰則の改正の要否・当否、考えられる法整備の内容を検討する〉

 2024年3月19日に開催された第3回会議で、交通事故被害者・遺族の立場として出席している「危険運転致死傷罪の条文見直しを求める会」代表の波多野暁生氏は、速度超過による事故について次のように発言していた。

「例えば、時速150キロメートル、180キロメートル、200キロメートル近いスピードが出ていたとされる事件があります。現行の自動車運転死傷処罰法第2条第2号は、私の理解では、進行制御困難かどうかの判断に当たって考慮する『道路の状況』に、動いている車や歩行者などの流動的なものは含めないで、進行が制御できていれば危険運転致死傷罪には当たらないとされていると理解しています。

 しかし、一般の常識からすると、時速百何十キロメートルというスピードが出ていれば、危険に決まっているわけで、当然、被害者たちは、要望を出して、常識に照らして判断してくださいと言うわけです。また、補充捜査うんぬんという話のときに、検察の方は、そのようなスピードを出して実験をするのは危険だからできませんと言うのです。これが何なのかということです」(一部抜粋)

『そのようなスピードでの実験は“危険”だからできない……』 波多野氏が引用し、指摘する検察の言葉は、まさにこの問題の根幹を示しているのではないか。

 混合交通の一般道で時速120キロという速度を出し、死亡事故を起こしても「過失」と判断され、結果的に執行猶予付きの判決が下される車優先社会は、一刻も早く見直さなければならないだろう。