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ネットの中傷で信用失墜させられたパイロット予備校、匿名ブロガー告訴・特定

2022.11.24(木)

JBpress記事はこちら

ネットの中傷で信用失墜させられたパイロット予備校、匿名ブロガー告訴・特定

加害者側からの示談申し出も拒否、被害者があくまでも裁判での決着を望む理由

「『池袋暴走事故の遺族を中傷、初公判で被告「侮辱の意図なかった」と無罪主張』(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20221116-OYT1T50210/

 11月16日に報道されたこのニュースを、我が事のように思いながら読みました。まさに、顔や名前を出して闘ったことのない、卑怯者の思考回路です。これがとおるなら、侮辱罪を重くした意味がなくなります」

 そう語るのは、東京都在住の谷誠さん(46)です。

 実は、谷さん自身も、匿名の人物によってネット上に根拠のない誹謗中傷を繰り返し書き込まれた当事者です。1年以上にわたって、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わい、経営する事業においても大きな実害を受けたといいます。

谷誠さん(本人提供)

谷誠さん(本人提供)

「私は一連の誹謗中傷により、10年間にわたって積み上げてきた信用を瞬く間に落とされました。妻子も精神的に追い詰められ、泣かされました。しかし、苦しんだ末、刑事告訴に踏み切り、警察の緻密な捜査によって相手が特定されたのです。加害者は海外でIPアドレスを攪乱しながら個人の特定を逃れているようでしたが、日本の警察の方が一枚上手でした。起訴はこれからですが、今後のネット上の誹謗中傷の抑止のためにも、この事実と経緯を社会に向けて公開できたらと考えております」

 この1年、谷さんはどれほど過酷な体験をし、姿の見えない相手とどのように闘ってきたのか……。お話を伺いました。

受講契約が一気に激減

 谷さんは1999年に航空大学校に入学し、その経験を生かして防衛省航空自衛隊に入隊。その後、防衛大学校総合安全保障科(大学院)を卒業し、2011年にパイロット予備校を設立しました。

「パイロットの予備校は10年間、順調に運営してきました。そしてこれまでに600名以上の生徒たちが、航空大学校や民間航空会社、航空自衛隊などに進み、パイロットの道を歩んでいます。

 ところが昨年、私個人と会社に対するネガティブな記事が多数掲載されているブログがあることを発見したのです。書き込んでいる相手は誰なのか、理由は何なのか、全くわかりませんでしたが、このブログによる誹謗中傷の影響は大きく、受講契約を控える動きが出たため売り上げは激減。生活が一転しました」

ライトシミュレーターを使った授業の様子。右側の人物が谷さん(谷さん提供)

フライトシミュレーターを使った授業の様子。右側の人物が谷さん(谷さん提供)

謂われなき中傷

 告訴状の中には「誹謗中傷」のごく一例として、2021年10月に書き込まれた以下のブログの文面が記載されていました。

《『航空予備校』か『パイロット予備校』かよく知らんけど(笑)やってる内容がエグ過ぎる。ほとんど何もやらずに、合格体験記だけ集めて次年度の学生から何十万ブンダグってるイメージが徐々に明確になってきた。特に面接オタクの僕からしたら、沢山学生集めて向かい合わせて『面接やってみろー』だけで面接対策終わらせるのは面接の神様を侮辱している(笑)》(原文ママ)

「現在は、批判記事の大部分が削除されていますが、海外にIPアドレスを持つ『ネバギバ敏郎ブログ』(https://nebagiba.com/)というのが、問題のサイトです。

 告訴状に抜粋したこの書き込みは、氷山の一角ですが、事実無根の文言が複数羅列されています。上記の文面を例にすると、実際には、個別で添削を行っており、多い人では7回ほどやり直したケースもあります。12月が特に忙しく、学生に添削指導を行いながら年越しを迎えることも多くありました。セミナー時には、添削完了したものをベースに、質問の多様性を引き出すため、学生同士にランダムで面接をさせます。

 単に学生同士でやらせるだけなら、そもそも沢山学生は集まらないでしょうし、名前と顔を出してまで合格体験記なんて書くはずもありません」

2000年の合格祝賀会の記念写真。前列中央が谷さん(谷さん提供)

2000年の合格祝賀会の記念写真。前列中央が谷さん(谷さん提供)

告訴状受理からあっという間に加害者特定

 谷さんは弁護士と共に、ブログに書かれた多くの中傷書き込みを精査しながら、名誉棄損の犯罪要件に当たる部分をチェックして一覧表にまとめました。そして、2021年8月、警視庁麻布警察署に相談。同年12月、証拠をそろえた上で正式に被害届を提出しました。その結果、今年2月、本件は名誉棄損に当たるとして「被告訴人不詳」として告訴状が受理され、本格的な捜査が始まったのです。

「警察とのやり取りの中で学んだのは『証拠』の作り方です。例えば、ブログの該当ページを印刷する場合、日付もわかるようにしないと証拠にはならないんですね。当初はそれを知らなかったため、一度提出してダメだと言われ、再度、日付が出るように設定したうえでプリントアウトしたこともありました」

 それから約1か月後、麻布警察署から谷さんのもとに知らせが入りました。捜査の結果、加害者の特定に至ったというのです。

「その人物は、台湾在住の日本人パイロットでした。『この手の事件では、ふたを開けると顔見知りが多い』という話を警察から聞いていたのですが、私にとってその男は、顔も名前も見るのは初めてで、全く面識はありませんでした。正直言って、IPアドレスが海外のものということもあり、相手を探し出すことは難しいのではないかと思っていたのですが、麻布警察署が大変慎重に捜査を進めてくださり、そのおかげで見事、特定に至ったことには本当に感謝しています。相手もまさかこちらが警察に相談して特定されるところまでは想定していなかったでしょうね」

示談の申し出、受け入れるつもりなし

 今回、谷さんは筆者が執筆した以下の記事を読み、連絡をくださいました。

●「金目当て?」「全滅しろ」事故の被害者遺族にSNSで酷い中傷、遂に告訴へ(JBpress)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70462

●スレッド立ち上げ、遺族に「アホ」 侮辱罪での告訴状を警察が受理(Yahoo!ニュース 個人)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagiharamika/20220928-00317076

「交通事故でお父さまを亡くされたこのご遺族は、実名と顔を出して世の中に訴えられていました。そのメッセージは読み手である私の心に強く響きました。だから私も、今回、実名で訴えることを選びました。自分が体験するまでは、ネットによる誹謗中傷被害がこれほど過酷なものだとは知りませんでした。自分が何者であるかを隠して誹謗中傷を繰り返すという卑怯なやり方がまかり通るなんて、絶対に許してはなりません。また、一連の流れを見て、心配していたであろう航空大学校や受験生の後輩たちにも、『悪い行いにはそれ相応の報いがある』ということをしっかりと示す必要があると思ったのです」

 2022年夏、警察は特定された人物に対する事情聴取を日本国内で行ったそうです。本人はすでにブログへの書き込みを認めており、先方の弁護士からは警察を通して示談の意向を伝えてきました。しかし、その申し出は、即却下したといいます。

 谷さんはこう語ります。

「示談には応じません。本件がもし侮辱罪として成立すれば、法改正後初の事案になるかもしれません。刑事裁判が終わったら、民事裁判を起こして損害賠償を求める予定です。とにかく、今、ネット上の誹謗中傷で苦しんでいる人たちには、決して泣き寝入りをしないでほしいと思います。たとえ海外のIPアドレスであっても、日本の警察はここまで捜査し、追い詰める技術を持っています。どうかあきらめず、まずは捜査機関に相談していただきたいと思います」

<谷さんの告訴~加害者特定までの経緯>
●2021年
6月 「ネバギバ敏郎ブログ」をはじめて閲覧
8月 麻布署に資料を持参し説明に出向く
11月 パイロット予備校関連の内容で特に酷いページの多くがブログから消える(理由は不明)
12月上旬 麻布署にて被害届作成
12月中旬 ブログ会社からのデータ受領及び解析スタート
●2022年
1月 警察が加害者が勤務する航空会社の日本支社を捜査
2月上旬 告訴状提出(谷氏個人と法人の2本立てによる刑事告訴)
3月中旬 相手方弁護士から警察に、IP隠蔽ソフトや使用したパソコンの画像が届く。捜査の結果と一致
7月 加害者の事情聴取。後日、弁護士を通じて示談希望の連絡