あまりに不可解なわが子の溺死、なぜ警察は短時間で「事故」と結論付けたのか
遺族への信じられない誹謗中傷、いったい誰が
2022.8.19(金)
お盆の直前、Twitterにこんな一文が投稿されました。
<昨晩は久々に義母と話をゆっくりする事が出来ました。その中で、お供え用のしきみを選別してる時、『まさか優空のしきみを自分が選別するなんて、夢にも思わなかった。未だ信じられない。』といった話をしました。
皆、あの日から進めてない。>
書き込んだのは、高知県の岡林宏樹さん(49)。2019年8月22日、高知県南国市と高知市の間を流れる下田川で、当時小学2年生(7歳)だった長男の優空(ひなた)君を亡くした父親です。
遺体発見の1時間後には「単独の溺水事故」と断定した高知県警
この件については、1年前、『川に沈んでいた愛息、なぜ県警は「解剖しても無駄」と告げたのか 見つかった生前の日記、ページめくった父親の悔恨』という記事でレポートしました。
【参考記事】川に沈んでいた愛息、なぜ県警は「解剖しても無駄」と告げたのか(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66554)
優空くんは行方不明になった翌日、川底から遺体で発見されましたが、司法解剖は必要なしと判断され、約1時間後、「単独の溺水事故」と断定されました。
しかし、岡林さんは、当時一緒にいたとされる児童らの証言が二転三転していること、また、彼らが助けを呼ばずその場を離れ、優空君の自転車を乗りまわしていた事実等が明らかになったこと、さらに、優空くんがいじめを受けていた疑いも出てきたため、高知県警に再捜査を求め続けてきたのです。
今年の8月22日で優空君が亡くなってから3年……。真実究明はどこまで進んだのか、新たな動きはあったのか、岡林さんにあらためて伺いました。
警察庁に再捜査を求める署名を提出
――昨年の8月にお話を伺ってから1年が過ぎました。この間、どのような動きがあったのでしょうか。
岡林 真実究明の活動はずっと続けています。息子が亡くなって2カ月後、高知県警に再捜査を求める第1回目の署名活動を行い、全国から7万6000筆を超える署名を提出しました。しかし、「捜査は継続中」という詭弁で片付けられてしまい、残念ながら進展は全くありませんでした。そこで今年になって、今度は警察庁に再捜査を要請する第2回目の署名を開始したのです。
――県ではなく、国に訴えようとされたのですね。
岡林 はい。本件の経緯とずさんな捜査の現状を国の方に知っていただきたいと思ったのです。コロナ禍ではありましたが、全国から14万5572筆の賛同署名が集まり、2022年3月、警察庁の要請に従って、陳情書面と共に郵送しました。署名用紙は大変な量で、重量は75キロもありましたね。併せて、高知県南国市で1年以上開催が止まっている「いじめ第三者委員会」についての実情も報じていただきたく、3月24日には衆議院議員会館で記者会見を行いました。
優空君の事故の再捜査を求める署名簿が入ったダンボールの数々(遺族提供)
議員会見で記者会見する岡林さん(写真中央。遺族提供)
国会で取り上げられたのに……
――4月には国会でも「高知小学生水難事故」が取り上げられたようですね。
岡林 はい。4月6日、梅村みずほ参議院議員(日本維新の会)が、優空が川で亡くなった件を法務委員会で質問してくださいました。梅村議員は私たちが第二回目の署名を提出して再捜査を求めたことを取り上げ、警察庁に対して「どう対応するのか?」と真正面から問い詰めました。そのときの警察庁の答弁は以下の通りでした。
<お尋ねの件については、令和1年8月、高知県の下田川において、当時小学校2年生の男子児童が溺れて亡くなられた事案と承知しております。本年3月に、警察庁において御遺族から陳情書と署名を受領しております。改めて、亡くなられた御児童の御冥福をお祈り申し上げます。受領した陳情書については、本件事案を担当する高知県警察にも情報共有を図ったところであります。個別の事案における捜査の内容についてお答えをすることは差し控えますが、高知県警察において、御遺族の心情に配慮して適切に対応を行っていくものと考えております>
まさにこれ以上ない、国会という場での質疑には本当に感謝しています。ですが、警察庁は、「所轄の高知県警に対応させる」と答えました。私たち遺族がなぜ、2回目の署名を県ではなく国に届け、訴えたのか……。この心情を理解して欲しかったです。
――警察庁のこの答弁の後、何か動きはあったのでしょうか。
岡林 捜査自体の動きは特にありませんが、高知県警から説明をしたいとのことで呼ばれました。
警察官が発した「守るべきは残された4人の児童達」の言葉の真意は
――どのような説明があったのですか。
岡林 高知県警本部では、「警察庁は捜査機関ではない」「一緒にいた当事者たちが、優空くんが自ら川に入ったと証言していたから事故である」「事故でないというなら証拠を出せ」「捜査情報の開示請求には応じない」「事故を否定する自供など確証があれば触法少年(*刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の少年のこと)として捜査をおこなう」といった内容の話をされました。当時担当した刑事もその場に同席していましたが、2時間のあいだほとんどしゃべりませんでした。誰かに「何もしゃべるな!」と言われていたなら納得できるレベルでした。
――結局、岡林さんの投げかけた疑問点については、具体的な説明はなかったということですか?
岡林 はい。そもそも、司法解剖も、薬毒物検査も、現場の詳しい捜査すら行わずに、なぜ、短時間で死因を判断できたのかが納得できないのですが、たくさんの不可解な事由に対して、「遺族には説明不要」というのが高知県警の姿勢です。息子が泳げなかったこと、また、日常的にいじめがあり、再三泣いて帰ってきたことなど、そうした事実はまったく彼らには届かないどころか聞こうともしません。
警察の言い分は当初から、「イジメがあれば一緒にはいないでしょ?」の一点張りです。遺体が発見されて間もないとき、警察からこう言われたんです。「守るべきは残された4人の児童達」と。あのときの言葉だけは忘れられません。
事故現場(遺族提供)
度し難い遺族への誹謗中傷
――Twitterを拝見していると、ときどき酷い書き込みをされているようですね。
岡林 はい。辛い書き込みが繰り返しあります。息子のお墓参りをしているときの写真をアップしたら「こういう写真気持ち悪いです笑」とか、合わせた手の写真をクローズアップされ「気持ち悪い指」などと書かれました。
SNSでは岡林さんへの中傷が続いている
優空君の墓前に手を合わせる岡林さんの写真の手を拡大して「気持ち悪い指」とは……
――なぜそんなことを……。
岡林 わかりません。先日も、息子が亡くなった現場で供花の交換と草刈りをして来たのですが、そこに立てられている注意喚起の看板に、このようなステッカーが貼り付けられているのを発見しました。
事故現場の注意を呼び掛ける看板に“死神”のステッカーが(遺族提供)
事故現場に子どもによるものとは思えない嫌がらせ
――『事故』という赤い文字の上に、何か黒いステッカーが貼られていますね。
岡林 「死神」です。すぐに剥がしたのですが、車のボディに貼るためのもので粘着力が強く、接着剤の跡がべっとりと残ってしまいました。その後、薬剤を使ってなんとか綺麗にはなりましたが、繰り返されるこうした悪戯に心を痛めています。これは子どもの悪戯ではないと思うのですが、誰が、何を目的にこのようなことをするのか……。
また、息子の名前を挙げて、こんな書き込みもありました。
<優空君という名前、なんて読むのかわからない。キラキラネームの子どもは不幸になる法則>
SNSに書き込まれた優空君と両親を貶めるような書き込み(画像は一部加工しています)
――本当に卑劣な投稿ですね。被害者遺族がなぜこのような被害を受けなければならないのでしょう。インターネット上の誹謗中傷対策として「侮辱罪」に関する法改正が行われました。交通事故遺族への誹謗中傷をして逮捕者も出ていますが、抑止力になってほしいものですね。
岡林 はい。真実を明らかにするまでには、まだまだ時間がかかると思いますが、私たち遺族としては、とにかく息子の件を風化させてはならないという必死の思いで活動を続けています。この夏も痛ましい水難事故が多発していますが、一人でも多くの命を守っていきたいですね。私たちのような思いをする人をこれ以上増やしたくはありません。微力ながらそう願っております。
●「高知県小学生水難事故」のHP
https://team-hinakun.jimdofree.com/