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自賠責紛争処理機構が行っていた「被害者切り捨て」、違法行為を改めさせた弁護士の戦い(前編)

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2024.6.14(金)

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自賠責紛争処理機構が行っていた「被害者切り捨て」、違法行為を改めさせた弁護士の戦い(前編)

 交通事故の被害者を保護、救済することを目的に組織された「自賠責保険・共済紛争処理機構」が、約10年前から「違法」ともいえる運用で被害者に不利益を与えていたことが発覚した。それに気づき、裁判まで起こして是正させた札幌の青野渉弁護士に、この1年の闘いと、損保業界の変わらぬ払い渋り体質について、自賠責保険問題の追及を続けるジャーナリスト・柳原三佳が聞いた。

場合によっては賠償金に数千万円の差が

柳原三佳(以下、柳原) ビッグモーターによる保険金不正請求問題、保険のカルテル問題など、昨年から損保会社が絡んださまざまな不祥事が表面化し、大問題となっています。そんな中、青野先生はこの1年あまり、損保会社が深く関与しているある組織との闘いを続けてこられたそうですね。

青野渉弁護士(以下、青野) はい。損保業界が出資して設立された「一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構(通称/紛争処理機構)」が、ここ数年、交通事故の被害者が提出する新証拠の受付を拒否していたことが発覚し、驚きと怒りをおぼえました。まさに「違法」ともとれるめちゃくちゃな運用でした。

柳原 後遺障害の等級に納得できない被害者は多数おられますが、適正な認定が受けられないとなれば深刻ですね。

青野 そうなんです。交通事故で障害を負った場合、【自賠責への被害者請求】→【異議申立】→【紛争処理機構への申請】というのはごく一般的な手続きの流れです。例えば、「7級の高次脳機能障害が認められるか?」という争点であれば、非該当か否かで、数千万円単位の賠償金が受け取れるかどうかに直結します。

柳原 ビッグモーターで問題になったのは1件当たり数十万円の「クルマ」の修理代でしたが、不正の対象が「被害者=人」で、さらに賠償額に数千万円の差が出るとなると、本人だけでなく家族の人生にも影響を及ぼしますので、とても深刻ですね。

青野 おっしゃる通りです。

「新証拠を審査してほしいなら、申請を取り下げてから自賠責に異議申立せよ」

柳原 では、紛争処理機構による「めちゃくちゃ」な運用とは、具体的にどのようなものだったのでしょうか?

青野渉弁護士

青野渉弁護士

青野 私が委任されたケースのひとつですが、交通事故で後遺障害を負ったAさんが、自賠責で判断された低い等級認定に納得できず、新たな証拠としてCT等の画像や医師の診断書を紛争処理機構に提出しようとしたところ、機構の担当者が、「ウチは、自賠責保険の判断の当否を審査するだけの仕事しかしていません。だから、新しい証拠は審査の対象となりません。新しい証拠を審査してほしいなら、ウチへの申請は取り下げて、再度、自賠責保険に異議申立をしてください」と取り下げを勧告したのです。

柳原 門前払いですか? 新しい証拠を受け付けなければ、そもそも再審査などできませんよね。

青野 交通事故で後遺障害を負った被害者は、皆さん大変苦しんでいて、誰もが早急に自賠責保険から適正な認定をしてもらいたいと望んでいます。

 特に、紛争処理機構に申請している方々は、すでに自賠責への請求という第一段階で「後遺障害」を否定され、さらに異議申立によっても再度否定されているため、経済的にも、精神的にも、非常に困窮しておられます。一刻も早く公正中立な第三者機関で審査してもらいたいと思って、できるだけの証拠を集めて準備し、藁にもすがる思いで紛争処理機構に申請をした人たちです。

 そういう人たちに対し、「新証拠は審査しない。審査して欲しいなら取り下げて、異議申立から出直してこい」と言うのですからひどいものです。

柳原 Aさんも事故発生から時間が経っていたのですか。

青野 紛争処理機構に申請した2023年1月の時点で、事故から約1年半が経過していました。私が見ても明らかに障害が残っているのに、この時点ですでに2回にわたって、後遺障害は「非該当」という判断を受けており、経済的にも追い詰められ、大変落ち込まれている状態でした。

柳原 それは気の毒ですね。

かつては新証拠も当たり前に受理されていたのに

青野 実は、10年ほど前までは、紛争処理機構に新証拠を提出しても、何の問題もなく受理され、再審査がなされていたんです。その後、私が申請した件で「新証拠は証拠になりません」と機構の受付担当者に言われたことはありましたが、私が「そんなはずはない。今まで新証拠を受け付けてきた」と反論すると、それ以上は何も言わずに受理されていました。

 ところが、Aさんの事案で申請したところ、受付の担当者がしつこく「新証拠は審査の対象となりません。取り下げをしてください。」と言って、私宛てに文書まで送付してきたので、「これはおかしい」と思い、紛争処理機構に質問状を送ったり、国交省に「行政処分を求める申し立て」(行政手続法36条の3に基づく処分の求め)を行ったりして、最終的には私が原告となって、紛争処理機構に対して民事裁判を起こしました。

新証拠の受理拒否は法律違反

柳原 明らかに法律に違反した運用だったということですか?

青野 まず、「紛争処理業務規程」の15条1項2号に違反するというのは明白でした。この業務規程違反は、自賠法23条の11、23条の21第1項4号という法律違反でもあります。

 そもそも「新しい証拠を含め、可能なかぎり証拠を集めて、事実認定を適正化する」というのは、設立当初からの紛争処理機構の最大で唯一の目的でした。その肝心要ともいえる「被害者の提出する新証拠」を審査の対象にしないというのは論外です。

 ちなみに、自賠法23条の10は、「指定紛争処理機関は、紛争処理業務を行うべきことを求められたときは、正当な理由がある場合を除き、遅滞なく、紛争処理業務を行わなければならない」と定めています。この規定にも違反します。

後編に続く