水害で愛車が水没したら…専門業者が明かす「即廃車は早計、海外には需要も」
車両保険をかけていないなら水没車両の引き取り先や処分先も自力で探す必要が
2022.11.16(水)
9月に相次いで日本列島に上陸した台風は、記録的な大雨と暴風を各地にもたらし、甚大な洪水被害を発生させました。9月18日に鹿児島県に上陸した台風14号は、九州や四国で平年の9月1カ月の2倍にあたる大量の雨を降らせました。
また、台風15号は9月23日夕方から24日の明け方にかけて線状降水帯を発生させ、静岡県では複数の地点で観測史上1位の雨量を記録しました。その結果、多くの川が氾濫し、多数の家屋が浸水被害を受けたのです。
今回の台風で被害を受けたのは、家屋だけではありません。概算ではありますが、宮崎県と静岡県を中心に、約2万8000台の車が水没し、再起不能になったと言われています(*株式会社タウ調べ)。
他人事ではなくなってきた愛車の水没
2万8000台……、改めてその台数の多さに驚いてしまいますが、ある日突然、マイカーが水没し、まったく動かなくなってしまったら、いったいどうすればよいのでしょう。また、車両保険をかけていなかった場合、水没した車はその後どうなるのか……。
〈マイカー水没、真夜中に鳴り響くクラクション… 台風直撃のオーナーが語る「被害車両の現実」〉(柳原三佳:Yahoo!ニュース 個人)
上記は、9月24日未明に静岡市内を直撃した台風15号によって、夫婦で所有していた車が2台とも水没してしまった方へのインタビューです。記事の中で、水没した無人のプリウスが、真夜中にヘッドライトを点滅させ、クラクションをけたたましく鳴らす動画を紹介していますが、オーナーの方はその情景を、アパートの窓からただ見ていることしかできなかったそうです。
地球温暖化で洪水が多発している今、想定外の水害は決して他人事ではありません。あれから2カ月がたち、9月の台風の記憶が薄れている方も多いことでしょう。しかし、被災地では今も大量の水没車の処理が継続中で、中古車不足も続いています。
そこで今回は、車の大量水没という過酷な現実と回収作業の苦労、そして、廃車車両のその後について、静岡県の現場で引き取り業務に携わってきた「株式会社タウ」(https://www.tau.co.jp/)の解体事業準備室次長の加藤邦久さんにお話を伺いました。
SUVがルーフまで水に浸かる
*インタビューは10月26日時点のものです。
――加藤さんは、台風15号による洪水が発生した際、静岡県内で水没車両の引き取り作業に当たられたそうですね。
加藤 はい。当初は被災場所からの車両引き取りの業に当たっていましたが、現在は吉田臨時第2サービスセンターで引き取り後の対応を行っております。
――サービスセンターとは、引き上げてきた車を保管する場所のことなのですか。
加藤 そうです。災害はいつどこで起こるかわからないので、車の保管場所を常に用意しているわけではありません。そのため、大きな水害が発生したときは、まずヤードの確保からスタートします。今回、静岡県内の水没車は膨大な数になることが予想されたため、すぐに吉田と牧之原に期間限定で広い場所を確保し、サービスセンターを設けました。これが確保できないと、引き取りが遅れてしまうのです。
しかし、吉田のほうはすぐに200台のスペースがいっぱいになり、牧之原もパンパンの状態です。
水没車で満車になった静岡県内のヤード(株式会社タウ提供)
――御社だけで水没車の引き取りはどのくらいの台数になりそうですか。
加藤 静岡県での引き上げ台数は、まもなく当社だけで2500~3000台になる予定ですが、最終的な数字はまだわかりません。
――発災直後はどのような状況だったのでしょうか。
加藤 とても過酷な状態でしたね。今回、静岡ではものすごく水位が上がり、SUV車のように車高の高い車種でも、ルーフまで水に浸かっているものがありました。
車両保険に入っていればいいが…
――突然、愛車が水没し、動かなくなってしまうのですから、オーナーさんは途方に暮れたでしょうね。
加藤 そうですね。急を要するのは、走行中に水没してエンジンが止まり、道路上で立ち往生して通行の妨げになっているケースです。そうなると、災害復興の車も通れないので、一刻も早く引き上げなければなりません。
ときには、近づけないような場所で泥にまみれて走行不能になっていることもあるので、他県からもレッカー車やクレーン付きの車載車に来てもらうなど、連携して作業を進めました。ときには周囲の方が一緒に車を押してくださるなど協力してくださり、本当にありがたかったですね。
泥に埋もれた車両をクレーン車を使って回収する作業(株式会社タウ提供)
――自然災害に対応する車両保険をかけていなければ、水没の損害は保険ではカバーされないわけですが、無保険でショックを受けている方も多いでしょうね。
加藤 車両保険をかけている人はとりあえず保険会社に連絡をすればいいのですが、かけていない方は保険金がおりないだけでなく、ご自身で水没車の引き取り先や処分先を探さなければいけないので、本当に大変だと思います。
水没車のバッテリーには要注意
――今回は洪水が未明ということもあり、ご自宅の駐車場にとめていて被災された車も多かったのでしょうね。
加藤 はい。ただ、今回のような大きな水害では、ご自宅も水に浸かってしまった方がほとんどでした。そうした方々にとっては、まずご自宅の片づけが先決なので、なかなか手が回らず、車はしばらく置きっぱなしになっていました。でも、発災から1カ月ほどたってくると、そうした車もかなり減ってきたように思います。
――最近はハイブリッド車(ガソリンとバッテリーを交互に使って走る車)やEV車(電気自動車)が多くなっていますが、こうした車が水没した場合の問題点はあるのでしょうか。
加藤 最近の車は昔の車と違って、サイドブレーキもシフトも電子制御になっています。ですから、水没して電気系統がやられてしまうと、車が自力で動かせないので大変です。
水没した車両のボンネット内部には泥が…(株式会社タウ提供)
――車が水没するとドアも開けられず、焦ってしまう方も多いようですね。
加藤 その場合は、キーの中に入っている緊急用のレスキューキーを直接差し込めばドアを開けることができるのですが、そもそも、電子キーの中にそうしたキーが入っていること自体、ご存じない方が多いようで、水没車のドアが開かなくて困ったという声はよく耳にしました。
――水没車のバッテリーを不用意に触ってはいけないと聞いたことがありますが。
加藤 はい。水没車は基本的に、素人が触ってはいけません。まれに火花が出たり、発火したりする恐れがあります。そのため、まずバッテリーの絶縁をしなければならないのですが、我々も片方の端子を外すときは危険なので、十分に注意をしています。
――引き取られた水没車はその後どうなるのですか。
加藤 まず、臨時に確保したヤードに運んで保管し、ナンバープレートのほか、車検証など車内書類の回収をおこないます。そして、オーナー様から印鑑証明をいただき、陸運局で廃車の手続きまで当社で代行しています。大規模災害のときは自動車税の減免措置が受けられる場合がありますので、どの高さまで水に浸かったかが後でわかるようにマスキングテープでマークをつけ、ナンバー付きで写真に残しておくことも大切です。
「水没した車両だから値が付かない」は早計
――先日取材させていただいた被災者の方(*前出の記事参照)は、2018年型のトヨタ・プリウスが水没し、修理不能。車両保険はかけておられませんでした。ご本人は水没車は値が付かないだろうと完全にあきらめていたのですが、御社に見積もりを依頼したところ、50万円という値段で引き取ってもらうことができたと大変喜んでおられました。
加藤 水没車は日本国内ではほぼ全損扱いで、スクラップになることが多いのですが、海外では日本車の人気が高く、十分に需要があります。
株式会社タウによる水没自動車の買取事例(株式会社タウ提供)
――たしかに、海外へ行くと、日本のメーカーの中古車をよく見かけます。
加藤 車種や年式、車両の状態、また、駐車中の水没か、それとも走行中の水没か、によっても査定金額は変わりますが、当社ではこうした損害車を、産業廃棄物ではなくリユース車として世界120カ国に販売し循環させているため、日本国内では値段のつかない車でも「価値のあるもの」として買い取ることが可能なのです。これを知らずに水没車を手放して損をしているオーナーさんがかなりおられるのではないかと思います。
――最近は「想定外」という自然災害が多発していますが、台風による洪水や地震による津波で、これまで数えきれないほどの車が水没の被害に遭ってきました。災害が予想できる場合は、早めに愛車を高台に避難させておくことが必須ですが、万一、車が水没して修理不能になった場合は、早々にスクラップに回さず、「リユース」という視点で査定を依頼することも大切ですね。ありがとうございました。