映画『Winny』にも登場、裏金問題の告発者・仙波敏郎氏が語る警察の狡さ
2023.3.18(土)
『殺人に使われた包丁をつくった職人は逮捕されるのか??。技術者の未来と権利を守るため、権力やメディアと戦った男たちの真実の物語。』
というキャッチコピーで話題の映画『Winny』が、3月10日に公開されました。
★映画『Winny』公式サイト:https://winny-movie.com/
警察による「冤罪づくり」の巧妙さ
この作品は、今から約20年前、実際に起こった二つの事件を実名でリアルに描くドキュメンタリータッチの映画です。
実は、私にとってはそれぞれの事件に親しい友人の名が登場するとあって、とりわけ感慨深いものがありました。
同時に、この映画を観て改めて「冤罪」がつくられていく過程の巧妙さと、組織を守るためにはときとして「黒」を「白」だと言い切り、一人の人間を潰すことも厭わない組織の恐ろしさを痛感しました。
ソフト開発しただけで「著作権法違反ほう助」なのか
ストーリーは、2002年に開発されたファイル共有ソフト「Winny」をめぐる大事件を主軸に展開していきます。
この革新的ソフトの開発者である金子勇さん(通称「47氏」=当時東京大学助手)は、2004年、著作権法違反ほう助の疑いで、京都府警本部ハイテク犯罪対策室と五条警察署によって逮捕されます。このソフトを使って多くの人が映画や音楽、ゲームなどを違法にアップロード、ダウンロードしたことで、ソフトの開発者である金子さんが罪に問われたのです。
映画では、俳優の東出昌大さん扮する「被告人」の金子さんが、気骨ある弁護士たちと心を通わせながら、最高裁で無罪を勝ち取るまでの7年間の闘いが描かれています。
開発者・金子勇を演じた東出昌大(右)とサイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光を演じた三浦貴大(映画『Winny』公式サイトより)
ちなみに、Winny事件の主任弁護人をつとめた秋田真志氏は、私の中学時代の同級生です。私自身、過去に秋田氏の手がけた冤罪事件をいくつも取材させていただいており、刑事弁護にかける彼の姿勢にはいつも驚嘆するばかりです。
劇中では演出もあって、秋田弁護士が少し年季の入った「伝説の刑事弁護人」として描かれていましたが、実際には彼が40代前半のときからこの事件に携わっていたことになります。
映画『Winny』にも登場するニセ領収書
さて、本稿ではこの映画のもうひとつのストーリー、警察の「裏金問題」を告発した元愛媛県警の仙波敏郎氏にスポットを当ててみたいと思います。
1949年、愛媛県生まれの仙波氏は、24歳のとき、愛媛県警の上司から裏金作りのための「ニセ領収書」を書くよう迫られましたがそれを拒否。以来、警察組織から壮絶な圧力を加えられながらも「警察官が罪を犯してはならない」という信念を貫き、一度も裏金作りに手を染めなかった人物です。
2005年には警察の裏金作りの実態について実名で内部告発を行い、この映画では俳優の吉岡秀隆さんが仙波氏役を演じ、当時の壮絶な出来事が事実に沿って描かれています。
そもそもなぜ、コンピューターソフトの問題を扱った『Winny』という映画で、仙波氏と愛媛県警との闘いが描かれることになったのか……。
それについては本作をご覧いただければお分かりになると思います。しかし、それ以前に、警察の「裏金問題」についての基礎的な知識がない方からは、劇中で出てくる「ニセ領収書」作成の場面の意味がいまひとつ理解できなかった、という声がいくつか届きました。
そこで、これから映画をご覧になる方のために、仙波さんご本人のメッセージをお伝えしたいと思います。
以下に紹介するのは、2010年3月31日、愛媛県の松山市内で行われたシンポジウムの未公開記録です。
この日は、事故直後から取材を続けていた冤罪事件「愛媛白バイ事件」(愛媛県警の白バイと高校生のバイクの衝突事故)の国賠訴訟判決の日で、私自身も仙波さんと共に判決報告会でシンポジウムに登壇していました。
愛媛白バイ事件の詳細については省きますが、この日、仙波さんは自身の体験に基づいた警察内部の問題と「冤罪」が生み出される捜査のカラクリについて厳しく指摘していました。
講演の一部を抜粋しますので、ぜひお読みいただければと思います。
警察組織を防御するためには、誰でもいいから犯人に仕立て上げる
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私は、愛媛、高知で起こった、いずれも白バイが当事者となったこれらの事故の話を聞くたびに、元警察官として恥ずかしくなるんです。こんな理不尽なことが、今、四国で立て続けに2件も起こっているということは、同じような事件が、実は全国でたくさん起こっているという裏返しでもあるのです。
では、なぜこのようなことが頻繁に起こるのか? 答えは簡単です。「警察組織」を防衛するためには、警察が悪いことをした側、つまり、絶対に犯人側になってはいけないのです。警察組織を守るために、全ての警官が必死で動いているのが現状です。
仙波敏郎氏(筆者撮影)
これは、警官をやっていた者でないとわからないことなのですが、本当のことを本音で言えるのは、25万人の現職警官と、15万人の警察OBの中で、おそらく私一人しかいないでしょうね。
なぜ私だけなのか、ということについてはあとで詳しくお話ししますが、そもそも、これが一番の問題だと思っています。
「警察側が犯人になってはいけない」という組織の大前提は、この二つの事件を取り上げて検証すればはっきり見えてきます。つまり、その目的のためなら、誰でもいいから犯人に「仕立て上げる」ということが、あたりまえのように、おこなわれるわけです。
裏金を作るためには「犯人」が必要
実は、警察が扱うあらゆる「事件」には、常に「裏金」の存在があり、こうした事件と密接にかかわっていることをご存知でしょうか。
現在の警察の制度ができたのは、昭和29年のこと。以来、警察組織による莫大な裏金作りは、現在に至るまでずっと行われてきました。そして、署長が裏金を飲み代に使い、裏金で車を買い、裏金で家を建てる……、そういう、卑しい慣習が脈々と続いてきたのです。
ただ、私だけは、裏金作りには一切関与せず、架空領収書の作成も拒み続け、定年まで通しました。
警察では、裏金の作り方の上手い人間が出世します。私の同期生で、裏金作りがものすごく上手いヤツがいました。彼は警察署長の地位まで上り、定年後は天下りし、今も年金と合わせると、合計1000万円近い収入を得て、左団扇で暮らしています。
考えてみてください。これもすべて皆さんの税金です。警察は皆さんの税金を食い物にしている組織なのです。
さて、ここからが問題です。
裏金を作るためには、誰でもいいから、とにかく「犯人」を作らないといけません。犯人が捕まれば、「この人が犯人に結び付く情報をくれました」というウソの報告書を書いて、Aさんに10万円、Bさんに20万円という謝礼金の架空領収書を書き、結局、そのお金を警察が全部懐に入れることができるんです。
愛媛県警でだけで、年間4億円です。1年間にですよ……。
(参考資料)
警察組織における裏金問題に関する再質問主意書
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a169529.htm
警察以外にも広がる「裏金」犯罪
裏金犯罪は、なにも警察だけの問題ではありません。実は、検察や裁判所も、莫大な裏金を作っています。
一般市民から見れば、警察官や検察官、裁判官は、信頼される仕事をしている人のはずですね。でも、彼らが架空のニセ領収書を作って請求し、国民の血税を「裏金」として、なんとも思わずに懐に収めてきたのは事実です。裁判官も認めざるを得ないでしょう。
しかし、彼らはそんなこと、なんとも思っていません。暮れにはみんなで「いい年だったなあ」と酒を酌み交わし、正月を迎えれば、「何やってもいいんだよ、何をやっても、どうせ困ったら市民は警察に来るんだから」そんな話が本当に、毎年出るのです。
私は、格闘技で計八段を持っています。一対一で闘ったら負けません。しかし、もし列車の中で女性に痴漢をしたと言われ、逮捕でもされたら、おそらくおしまいです。ですから、電車に乗るときは、必ず電車の中では両手を上げています。もちろん、ホームの端には立ちません。日本の司法というのは一人の人間を殺すことくらい簡単ですからね。
でも、私自身は命を捨てることを覚悟しているから、今の活動ができるんです。
2009年12月、私は、冤罪にもかかわらず17年間も収監されていた足利事件の菅家利和さんに松山でお会いしました。私は元警察官として、彼に「すみません」と謝りました。すると、菅家さんはこう言ったのです。
「他の警官には謝ってほしいが、私は仙波さんだけには謝ってほしくない。あなたは裏金に染まらず、正義を貫いてくれた、だからあなたは謝る必要がありません」
足利事件も当初、マスコミは警察発表をうのみにして、菅家さんを犯人だと書きたてました。物事を正しく報道するのが報道機関の使命ですが、残念ながら今の世の中でそれは期待できません。
ですから、今日この会場に来られた方は、マスコミの報道を見たとき、まずは本当にこれが真実なのかどうかを、疑ってください。
冤罪被害者はみんな、本当に苦しんでいます。ぜひ自分のことのように怒りを持って、支援してほしいと思います。
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県警をピリつかせる映画
仙波さんのお話、いかがでしたでしょうか。Winny事件の金子さんが最高裁で無罪を勝ち取ったのは、仙波さんのこのスピーチの翌年、2011年のことでした。
天才プログラマーとしての活躍の機会を、冤罪によって7年もの間奪われた金子さん、そして、裏金問題を告発し正義を貫きながらも、さまざまな組織的圧力に苦しんだ仙波さん。この二人の闘いは、まさに同時期に進行し、皮肉にも「Winny」というソフトによって思わぬかたちでつながることになるのです。
『Winny』の封切り前日、仙波さんは映画のチラシを持参し、愛媛県警の記者クラブを訪れたそうです。
仙波さんはそのときのことを、苦笑いしながらこう振り返ります。
「記者クラブ室でチラシを記者に手渡していると、広報県民課広報管理室の田口知彦警視が血相変えて飛んできましてね、『仙波さん、すぐに部屋から出てください』と言うんですよ。まあ、彼も警察官になりたての20代の頃から私のことはよく知っていて、『仙波さんの役は吉岡秀隆さんがされるそうですね……』なんて言ってました。この映画のことは、警察内部でも知れ渡っているようですね。後で確認したら、記者クラブでは私が持参した17枚のチラシをちゃんと各社に配布してくれたようで安心しましたが、残念ながら松山市内ではこの映画の上映はないようです」
映画『Winny』は、今の日本で起こっている現実を脚色なく活写した作品です。「真実」の追及に手を抜かず闘い続けた男たちの生きざま……。エンディングには、思わず熱いものがこみ上げました。
一人でも多くの方に見ていただきたい、そう思っています。