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ノンフィクション作家が実践する「地震への備え」、寝るときも装着するウエストバッグに入れるもの

大事なのは普段からの備えと「自分にとって必要不可欠なものは何か」の選別【JBpressセレクション】

2024.8.8(木)

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ノンフィクション作家が実践する「地震への備え」、寝るときも装着するウエストバッグに入れるもの

8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の強い地震が発生しました。気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)を発表したことでも分かるように、巨大地震の危険性が高まっています。私たちは地震にどのように備えればいいのでしょうか。今年3月、千葉県東方沖を震源とする強い地震が相次いだ際、千葉県在住のノンフィクション作家・柳原三佳氏が寄稿した「地震への備え」についての記事を再掲載します。(初出:2024年3月12日)

「最低3日、出来れば1週間程度の食料・飲料水の備蓄を」

 今、千葉県が揺れ続けている。

 3月9日には、夜明け前の午前4時26分に、ドン、という感じの強い揺れが襲い、ほぼ同時に鳴り響いた緊急地震速報のアラーム音で飛び起きた。私の住む大網白里市は震度3だったようだが、体感的には4に近く、揺れも長かった。

 約30分後に発信されたNHKニュースによれば、この地震の震源地は千葉県東方沖で、震源の深さは30キロ、地震の規模を示すマグニチュードは4.5。後で知ったのだが、午前3時59分頃にも、同じく千葉県東方沖を震源とする小さな地震が起きていたという。

 そして、同日午前9時36分、今度は大網白里市から『千葉県東方沖の地震活動について』という広報メッセージが発信された。

2024年2月27日より千葉県東方沖で地震活動が続いております。
今後の地震活動に注意し災害に備え、備蓄品など今一度確認しておきましょう。

 メッセージの下にはウェブサイトのURLが記されている。表示されていたURLを開いてみると、食料や飲料水など、市としての「備蓄」についての情報を伝えるとともに、「各ご家庭でも、緊急避難時の持ち出し品の準備と、最低3日、出来れば1週間程度の食料や飲料水などの備蓄をお願いいたします」と書かれていた。

 すでにさまざまなメディアで取り上げられているとおり、千葉県東方沖では今、断層がゆっくりと動く「スロースリップ」という現象が起き、地震活動が活発になっているという。その影響で、この地域では震度5弱程度の強い揺れが発生する可能性があるとして、再三の注意が呼びかけられているのだ。

 1月1日には能登半島地震が発生したばかり。被災地のあの過酷な映像がテレビで繰り返し映し出される中、「まもなく大きな地震が発生するかもしれない」と連呼されれば、そこに住む住民として不安を感じないはずがない。

 そこで、千葉県に住む住民の一人として、今、自分自身が行っている備えと、地域の現状をレポートしてみたいと思う。

スーパーや量販店からミネラルウォーターが消えた

 2024年2月末から頻発し始めた千葉県東方沖地震、今までで特に顕著だったのは、3月1日(金)と2日(土)だろう。

 まず、1日は明け方だけで身体に感じる地震が4回、そのうち、5時43分には震度4、4分後の5時47分には震度3の揺れがあった。

 2日の夜中には、1時49分の震度4を皮切りに、3時8分、33分、38分、40分と、有感地震が5回も連続した。いすみ市の観光名所である「夫婦岩」が崩落したのもこの日だった。

 さすがにこの直後には、ご近所さまと顔を合わせるたびに「今日もほとんど眠れませんでしたね」「ほんとに怖いですよね~」という言葉があいさつ代わりになった。

 深夜、2日間にわたって地震が頻発した影響だろう、翌日の3月3日には近所のスーパーやドラッグストアからペットボトルの水がほとんど姿を消した。

 日本テレビではそのときの模様を報道番組で取り上げていた。大網白里市のスーパーが取材され、画面には、『ミネラルウォーター“在庫ゼロ” 強い揺れに備え買いだめも』というテロップが映し出されている。

 幸い私は、能登半島地震が発生した直後、「さらに水を備蓄しておかなければ!」と思い立ち、1月中に2リットルの水を24本取り寄せていたので焦ることはなかったが、さすがに多くの店で「在庫ゼロ」となると、水を備えていなかった人たちはかなり焦ったようだ。

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 こうした状況を見ていると、予測される大きな地震に対して千葉県民がいかに真剣に備えているかが見えてくるが、一方で、群発地震が起こってから水の確保に動くようではすでに遅く、日ごろからの備えがいかに大切かということを痛感させられる。

災害時に「使える」圧力鍋

 次に売り切れが目立ったのは「無洗米」だ。お米を研がなくてもすぐ炊ける無洗米は、災害時の強い味方だ。万一、ライフラインがストップしても、カセットコンロと鍋と水さえあれば、いつでもご飯を炊くことができる。

 ちなみに私は圧力鍋愛好家で、普段からご飯も圧力鍋で炊いているが、これを使えば、沸騰して蒸気が出始めてからわずか3分とスピーディーにふっくらご飯が炊きあがる。カレーも3分、ゆで卵なら1~2分だ。もちろん、ガスの消費も最小限で済む。圧力鍋をまだ使いこなしていない人には絶対おすすめしたい調理器具だ。

 そのほか、トイレットペーパーは通販を利用して大箱で、ティッシュペーパーやウエットティッシュも多めに買って万一に備えている。

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毎日ウエストバッグをつけて就寝

 さらに、今回の群発地震が始まってから改めて自問自答したのは、自分にとって何が必要不可欠か? ということだ。その結果、1位はコンタクトレンズであるということを確信した。

 近視の私にとって、コンタクトレンズは日常生活に欠かせない大切な身体の一部だ。万一、強い揺れで家具などが倒壊したら、暗い中であんな小さいケースを探し出すのは難しいかもしれない。だったら、あらかじめ身に着けておこうと考え、夜、レンズを外した後、やわらかくて薄いタイプのウエストバッグに入れ、お腹に巻き付けて床に就くようにしている。

 もうひとつ、外へ出てすぐに車のドアを開けられるよう、愛車のキーも一緒に入れている。

 これは総入れ歯の方などにも、ぜひおすすめしたい対策だ。自分の生活に欠かせないものは人それぞれ違うが、睡眠中に強い揺れを感じて、着の身着のまま外へ飛び出したそのとき、何がなかったら一番困るか? をぜひ想像してみてはいかがだろう。

愛車は常時満タンに

 水や食料、衛生用品以外で不可欠な備えとしては、やはり燃料だろう。

 我が家は車を3台所有しているが、3月2日にはすべての車のガソリンタンクを満タンにしておいた。いざ大きな地震が来たら、たちまち給油できなくなることが目に見えているからだ。

 行きつけのガソリンスタンドに行ったとき、店主が「今日は満タンにするお客さんがひっきりなしで、皆さん相当地震を気にしているようですね」と話していた。ほかのガソリンスタンドでは、すでに品薄状態に陥っているところもあるらしい。

 また、そうした事態に備え、我が家では消防法で定められている上限の40リットルをガソリン専用の携行缶に入れ、常に自宅で保管している。

2019年9月の台風で被災した大網白里市のガソリンスタンド(筆者撮影)

2019年9月の台風で被災した大網白里市のガソリンスタンド(筆者撮影)

 このときは、建物の損壊や倒木などの被害のほか、停電や断水が発生し、市民生活に大きなダメージを与えた。一部では停電が20日以上も続いた地域があったほどだ。

2019年9月の台風で折れた電柱(筆者撮影)

2019年9月の台風で折れた電柱(筆者撮影)

災害時に車に燃料が入っているか否かは雲泥の差

 我が家は幸い、水道も電気も数日で復旧したが、熱中症の危険が叫ばれるような猛暑の中、たとえ数日であってもエアコンが使えないのは辛かった。低体温症や熱中症は命に危険を及ぼす。

 しかし、車が無事でさえあれば、暖房も冷房も効かせることができるし、スマホの充電だってできる。もっとも身近で手っ取り早い避難所となるのだ。

2019年9月の台風直後の大網白里市内のスーパー。冷凍食品の棚は空っぽだ(筆者撮影)

2019年9月の台風直後の大網白里市内のスーパー。冷凍食品の棚は空っぽだ(筆者撮影)

 実際に、私は東日本大震災の取材をする中で、発災直後、車がいかに初期避難と復興の役に立ったかを多くの被災者から直接聞いてきた。

 拙著『泥だらけのカルテ 家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは』(柳原三佳著/講談社)では、釜石市鵜住居地区で自らも被災し、自身の患者約200名の身元確認作業を行った佐々木憲一郎氏の過酷な体験談を取り上げた。佐々木氏は、あのときの経験から、今もガソリンタンクが半分になったら必ず満タンにするよう心がけているという。マイカーを所有している人は、平時からガソリンの備えを万全にすることを忘れないでほしい。

気になるカラスの鳴き声

 さて、ここからは科学的な裏付けはないのだが、やはり気になるのでちょっと書いておきたいと思う。

 実はここ数日、『カラスがやけに大きな声で鳴いているなあ』と思って、思わず外へ飛び出した後(約1時間後)に、震度1~3の揺れがきたことが3回続いている。

 そのことをFacebookに投稿したら「カラスには予知能力があります」という声のほか、「今は繁殖期ですから」というご意見など、いろいろ寄せられているが、その関連性はわからない。

 ただ、群発地震が発生している今、私自身の潜在意識の中に地震への不安が常にはびこっていることだけは間違いなさそうだ。動物たちの行動や雲のかたち、空の色といった自然の些細な変化を、全て「地震」に紐づけ、大きい地震が来る前に、先回りして心の準備をしておきたいと思っているのかもしれない。

できる対策を確実に

 さて、そんな緊張状態が続く3月10日(日)の朝9時頃、またしてもスマホから緊急地震速報のアラームが鳴った。市の防災サイレンも、同時にけたたましく鳴り響く。

 ちょうど庭へ出て洗濯物を干していた私は、

「ついに来たか!」

 と身構え、すぐに家の中を覗き込んだ。いつも震度のバロメーターにしている吊り下げ式の照明器具を見るためだ。しかし、思ったほど揺れていない。

 すると今度は、防災無線でなにやらアナウンスが流れてきた。はっきり聞こえないのだが、耳を澄ませると、「津波が来るので、高い所へ避難してください」と警告しているようだ。

 ほとんど揺れを感じなかったのに、いったい何があったんだろう! そんな不安を抱きながら改めてスマホに目をやると、そこには「訓練」という文字が。実はこれ、震度6強の地震と、高さ10メートルの津波を想定した、大網白里市単独による「津波避難訓練」だったのだ。

 まさに現在進行形で群発地震が発生している中、私も含め、事前にこの日の訓練を認識していなかった人たちは、さすがに突然の津波警報に驚かされたようだ。特に、スマホなどを持っていないお年寄りなどは、市から届いた「訓練」というメッセージを確認する術もなく、右往左往したのではないだろうか。

 何より、もしこの時間帯に本物の地震や津波が襲ってきたらどうなるのか? 時期が時期だけに、地震と津波におびえている市民にとっては、かなり紛らわしい訓練だったことは間違いない。

 とはいえ、こうした訓練は大切なので、今後はもっと市民への告知を徹底してから行う必要があるだろう。

 国土地理院によると、今回の地震活動では、房総半島東岸の大原で南東方向に2.1センチの地殻変動が認められているという。

 群発地震はいつまで続くのか、そして予測されている「大きめの地震はいつやってくるのか……。

 その答えは誰にも分らない。しかし、渦中の住民としては、正しく恐れながら万一の事態に備えたいと思っている。