衆-予算委員会第二分科会-1号 平成11年02月17日



○細川分科員
 民主党の細川でございます。
 私は、犯罪の被害者の人権、とりわけ交通事故の被害者の人権についていろいろお伺いをいたします。
 一昨年の十一月、東京都世田谷区で起こりました交通事故で亡くなった片山隼君の事件などをきっかけにいたしまして、最近、被害者の人権についていろいろ活発な議論がなされております。昨年、運輸省や自算会が自賠責保険の有無責の審査会あるいは再審査会をつくったり、あるいはまた、ことしの四月からは検察庁の方で、起訴、不起訴の処分結果とかあるいは公判の期日を被害者や遺族に通知する、そういう制度がスタートいたしますけれども、部分的ではありますけれども、被害者の立場を考慮した改善がなされている、そういうふうには思います。しかし、まだまだ被害者救済のための課題は山積をしているというふうに思っております。
 交通事故の被害者や遺族にとりましては、特に死亡事故などにつきまして、事故が一体どういうふうにして起こったのか、これを知りたいのは当然でありますし、また、警察とかあるいは検察庁の調べが不十分だ、十分でないということでありますれば、これを正していくのもこれまた当然だろうというふうに思います。また、交通事故が起こりますと、それに伴って、民事上の和解とかあるいはまた保険金の請求とか、そういうこともありますから、そういう意味でも、正確な事実をきちっと知らなければいけないというようなところがあろうかと思います。
 ところが、現在、被害者とかあるいは遺族に対する実況見分調書であるとか供述調書であるとか、そういう開示が十分ではないわけでございます。確かに刑事訴訟法の四十七条には、公判の開廷前には開示はだめだ、こういう規定があることも十分私も承知をしております。
 しかし、一方で、開示をしているということがあるのです。自動車保険料率算定会、いわゆる自算会とかあるいは保険会社に対しては、事実上情報提供が行われております。
 このことにつきましては、私は、平成九年五月二十八日に運輸委員会でこの問題について質問をいたしましたところ、当時の自動車交通局長がこういうふうに答弁をいたしました。自賠責保険の損害調査につきましては、「保険の請求があってからいたします関係で、どうしても警察からの情報に頼らざるを得ないという面が多いわけでございます」、こういう答弁でもはっきりと、警察からの情報がなければ調査ができない、自算会なんかのも調査ができない、こういうことでございます。
 また、御承知かと思いますけれども、週刊誌とかあるいは新聞とか、いろいろな報道で、この実況見分調書について、自算会とか保険会社、そういうところが見せてもらっているというようなことも報道されております。
 そこで私は、これはいかにも不公平だと。事故に遭われた遺族の方に対してはいろいろな資料が提供されない、開示をされない。一方の自算会であるとかあるいは保険会社、こういうところには資料が開示をされている。これは余りにも不公平、公平でないというふうに私は思います。
 したがって、せめて、民事上の権利を行使する、そのためにも必要な調書については、被害者とか被害者の遺族あるいはその代理人である弁護士について、そういう人にはそういう資料を開示するというふうにしていただかなければいけないと思いますけれども、この点についてどのようにお考えか、お答えをいただきたいと思います。

○中村国務大臣
 刑事訴訟法四十七条のお話でございますけれども、これは、訴訟関係人の人権保護だとか、捜査及び裁判に対して不当な影響が及ぶことを防止するということから、公判開廷前における訴訟に関する書類の公開を原則として禁止しておりますけれども、他方、委員御存じで御質問だと思いますが、公益上の必要があると認められた場合は例外的な取り扱いを許しております。そしてそれは、公判開廷前に訴訟に関する書類を開示するか否か、これは、その保管者、すなわち検察になると思いますが、それにゆだねられるという法律になっておるわけでございますね。それに基づいて一部公開されているんだと私は解釈するわけですけれども、今おっしゃいました、民事上の権利行使のために特に必要である、こういうこともあると思いますので、実況見分調書、これは、事件を不起訴処分とした後は、閲覧を求められれば、原則として開示をするということはやっておるわけでございます。
 ただ、こういう制度になっておりますからこういうことをやっているということでございますけれども、一方、やはりいろいろなことがこれから考えなければいけないことだと思いまして、ちょっと話が大きくなって申しわけないのですが、司法制度改革というようなことがこれから考えられております。
 その中で、刑事訴訟法四十七条によって秘匿するべき事項と、やはり知りたいという方々の権利とか、大きく言えば国政調査権も絡んでまいります、そういうことについて、大きな面から御論議をいただけないかと私は思っているのです。そういう中では、実を言いますと、起訴陪審、大陪審の制度とか検察審査制度の改革、そんなことも含めて御論議いただけないかと思っておるのですが、現法律によるとこういうことでやらせていただいている、こういうことだと思います。

○細川分科員
 大臣の方からは多分そういうようなお答えになるのではないかなというふうに思いました。
 法務省の方としてはそういう考え、原則的なそういう立場でそのようなことになるだろうと思いますが、私は、今のこの刑事訴訟法そのものにやはり被害者の人権あるいは救済という意味においてはちょっと欠けている面があるのではないかというふうに思っております。
 それは、まずこういうことだろうと思います。その実況見分調書にしろあるいは供述調書にいたしましても、誤りがある可能性があるにもかかわらず、それをチェックするというのが現在のシステムでは非常に不十分だという点があろうかというふうに思います。それをチェックするためには、公判が始まる前に被害者側にもきちんと意見を聞いたりしますと、そこに誤りが正される部分も十分あるのではないかというふうにも思っております。
 そういう意味で、ジャーナリストの柳原三佳さんという方が大変熱心でいろんな交通事故の遺族の方を追っかけて、特に加害者の無責の、責任がないというこの問題についてずっといろいろ追っかけられて、その中で、いろんな調査の中ではいわゆる加害者の一方的な言い分だけを聞いて調書がつくられる、あるいはまた、場合によっては警察官の方が勝手につくる、捏造しているような場合もあるとか、そういうことも書かれております。そういうのが事実だとすると、そういう事実に反することをある程度チェックして、その誤った資料がつくられるそれをチェックする何割かは、被害者に情報を提供することによってそういうこともチェックできるのではないかというふうに私は思っております。
 それから、もう一つ問題があるのは、不起訴処分になったような場合に、その後被害者と加害者との損害賠償請求の問題があるのですけれども、これが、いわゆる不起訴になりますと、不起訴になったこと自体が記録上大変重くなって、そうしますと、結果的に被害者に非常に不利益な資料がばあっとつくられちゃった、こういうことで、これも非常に私は問題だと思いますし、外国では、割と人権に配慮したいろいろな法的なものが最近つくられているというふうに聞いております。
 そこで、私は大臣にお聞きをしたいのですけれども、今の刑事訴訟法というのが、先ほども言いましたように、限界がある。そこで、刑事訴訟法を改正して、被害者の人権を尊重するような、そういう意味で被害者にも訴訟手続の中に関与していくような、そういう制度がつくれないものかどうか。
 例えば、管轄の問題でしたら管轄の移転とか事件の移送の問題があるのですけれども、こういうのも被害者の方の意見が聞いてもらえるようなそういう制度とか、あるいは刑事訴訟の記録とか、確定じゃなくて、確定の前に裁判になっているような場合、そういうときにも、被害者の方は被害者ですから、被害者とかあるいはその代理人の弁護士が要求した場合にはその記録がきちんと見られるようなそういう制度、あるいは被害者が証拠保全をやるとか、そういうような権利を訴訟法の中に組み込めないものか。
 そこのあたり、ちょっと細かいことになって恐縮ですけれども、大臣、ひとつその被害者の人権救済というのですか、やはり被害者の方からもそういう訴訟手続の中できちっとした真実の追求をしていく、そういう制度を考えていただきたいと思いますが、どうでしょうか。

○中村国務大臣
 私、実は法律の専門家でもございませんのでお答えすることに限界があると思いますが、その調書の信憑性だとか実況見分の信憑性ということに誤りがあるだろうという立場でお答えするわけにいかない立場なんですよね。それが正されるのはまさに裁判であろうというふうに思います。裁判になれば、それは被害者の方も、いろいろな証人の方も出られるのだろうし証拠も出てくるのだろうと思います。
 今委員おっしゃいましたことで一番重要なところは、やはり検察の起訴独占のところにあるのではないかと思うのです、起訴するかしないかを検察が決めていくわけですから。この間新聞を見ていましたら、フランスの予審判事の権限が強くなり過ぎて、予審判事が起訴しないとそれは無罪になってしまうので、最高裁判所長官より予審判事の権限が上だというような冗談が言われるようになって、制度が改正されたということが出ておりました。
 ですから、そういうところを踏まえて、検察審査制度、私は実は検察審査制度を提案したときの提案理由説明書を読んでみたのですよ。そうしたら、昭和二十年代に既に大陪審を考えていたのですね。大陪審を考えているんだけれども、ちょっと時期尚早だから検察審査制度を導入しようということになった。私、今検察審査制度を直観的に見てみて、欠陥があるのは、被害者が亡くなったときに申請できないことになっております。ですから、この間の例の世田谷の事件でも、職権でもって審査をした。私はこれは即座に、被害者の遺族が検察審査を申し立てるようにできるようにする法改正を考えろということで既に指示をいたしました。そういうところとか、裁判所に行けばもう裁判所の話ですから、我々法務省としてできるところは、検察の起訴独占のところをどう考えるかということを司法制度改革の中でいろいろお考えいただくようなことじゃないかと思うのです。
 それと、被害者の方に対する通知の問題。これは実はトラックの事件がありましてから、東京地検ではしばらくして通知することを始めたのですね。ところが、そのころ私が法務大臣にならせていただきましたので、これは全国統一した方法でやるべきだと。しばらく時間がかかりましたけれども、この四月から統一した様式でお知らせするようにしたということでございます。
 そういうことで、委員の御指摘をよく頭に入れて、極めて重要なところの御指摘をされていると思いますので、よくいろいろ勉強してまいりたいと思っております。

○細川分科員
 ぜひ、起訴の段階でということももちろんありますけれども、起訴された後、裁判の中で、訴訟法の中で被害者の人権を守るような仕組みをぜひつくっていただけるようにひとつ御努力をお願いしたいというふうに思います。
 そこで、進んでお聞きをいたしますが、今一番最初の質問で、大臣の方からお答えになりましたその刑訴法四十七条の問題がございます。
 この刑訴法四十七条でいきますと、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」という規定になっておりまして、裁判前には訴訟に関する書類を見せてはいけないということでございます。これをちょっと大臣も言われたところがありましたけれども、この四十七条、特にただし書きを使って、弾力的に対処するようにしてもらいたいというのが私の気持ちでございます。
 特に実況見分調書、これは非常に客観的なものでありますから、これらのものを被害者とか遺族、あるいはそれらの代理人の弁護士に対してできるだけ明らかにしていただきたい。これは訴訟記録というか、訴訟のためにつくっている書類を全部出してくれというのではなくて、せめて実況見分調書、こういうものを被害者などに見せてもらいたい、内容を見せてもらいたい、あるいは謄写をさせてもらいたい、こういうことでございます。
 これは先ほども申し上げましたように、自算会とか保険会社、そういうところには見せている事実があるわけなんですね。被害者の方にはなかなか見せてもらえない。これはやはり不公平でございますから、この刑訴法四十七条のただし書きの、「公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。」という例外をもっと弾力的に運用してもらえないものかどうか。ここはぜひお願いをするわけなんですけれども、これについて、実際に捜査を担当している警察庁の方でちょっとお答えいただきたいと思います。

○柴田説明員
 被害者の方々への事故情報の提供でございますが、私ども警察といたしましては、現行法、現行刑事訴訟法の枠内、抵触しない範囲におきまして、保険会社から問い合わせがあった場合、あるいは被害に遭われた、あるいは遺族の方々から問い合わせがあった場合、いずれもその抵触しない範囲内においてお答え申し上げているというところでございます。

○細川分科員
 抵触しない限りで見せているというふうに言われますけれども、どうもそこが公平ではないのではないかというのが、これは事故に遭われた方がみんな言われるんですよ。それで、いろいろ調査をされている方のいろいろな報告書を見ても、そういうところなんですよ。だから、ぜひそこはできるだけ、これは民事に専らと思いますけれども、客観的な事実関係を保証するようなものですから、特に実況見分などというのは。それはひとつ公平にやってもらうように僕はお願いしたいのですけれども、もう一回お願いします。

○柴田説明員
 実況見分調書となりますと、なかなかそのものをお見せするというわけにはまいりませんが、通常、被害者の方々からお申し出があった場合に、現場の見取り図等をお示ししながら御説明を申し上げるということも現場では行われているというふうに聞いております。
 いずれにいたしましても、片方の当事者の方々に詳しく、すなわち不公平というようなことのないように指導してまいりたいと考えております。

○細川分科員 ぜひそういう方向でお願いいたします。
 それでは、最後になりますけれども、今法務大臣の方からもお話がございました検察審査会の関係でちょっとお伺いをしたいというふうに思います。
 法務大臣の方からは、これについての改正の必要性のようなものもいろいろお話がございました。この検察審査会の中で、不起訴になった事件、不起訴が相当か相当でないかというようなことを一般の方が審査をして、そして結論を出しますけれども、その検察審査会の結論に対して申し立てをした人たちがいろいろ不満も言われて、不満を持っておられるようでございます。
 これは去年の七月五日ですけれども、毎日新聞の記事の見出しは、「看板倒れの「審査会」」というようなことで報道をされております。
 どうも、審査会の審査をちょっと聞いてみますと、結局、十一人で審査をするんですが、審査をする判断材料の資料というのが、刑事記録というか、いわゆる警察あるいは検察官が調べた、そういう資料ばかりで、それが資料の全部のようですから、そうしますと、これは同じ結論になるのは大体当たり前じゃないか。同じ資料を見てやるわけですから、いわゆる不起訴が相当だという結論になる。
 そこで、そうではない、もっと判断材料の資料をいろいろな方に提供もしてもらえるような、特に被害者側のそういうところからも資料をぼんぼん出せるような仕組みというか運用、こういうことをやはりやっていかなければいけないんじゃないか。制度そのものとしても、いろいろ大臣も言われましたし、それは私もそういうふうに考えますけれども、今の検察審査会の中での運用でも何か改革ができるようなものがあるのではないかというふうに思いますので、その点について、改革が考えられるのかどうか、裁判所の方にお聞きをいたします。

○白木最高裁判所長官代理者
 委員仰せのように、検察庁の不起訴処分に不服があって検察審査会に審査を申し立てたような場合、申立人としてはいろいろ言い分があり、また資料も提出したいと希望されるのは自然なことであろうかと思われます。
 そこで、検察審査会の運営に責任を負っております私どもといたしましては、検察審査会の事務局長の協議会などにおきまして、常々、少なくとも申立人からそのような希望があった場合には、検察審査会長によくお話をして、申立人から話を聞く機会を設けることが望ましいというように指導をしてきたところでございます。
 ただ、これも委員御承知のとおり、検察審査会はまさに十一人の国民の皆様で構成されているわけでございまして、事務局の職員というのはあくまで事務的なお手伝いをしているだけでございます。そういうわけでございますので、実際に事務局が審査会をリードしたりするようなことがあってはいけませんし、また、現実にそのようなことは行っていないところでございます。
 結局、申立人から事情を聞くかどうかといったようなこと、すべてにわたりましてまさに国民の代表であります審査会御自身が事件ごとに決定していくシステムというふうになっていることを御理解いただきたいと存じます。
 なお、現在の法のもとでも、証人とかあるいは専門的助言者という形で事情を伺うことができるシステムになっております。以上でございます。

○細川分科員
 今説明があったように、建前としてそういうふうになっているとしても、なかなかその運用の場面でそういうふうになっていないように私は伺っておりますので、どうぞ、そういう点で申立人が十分納得のいけるような、特に、そういう審議をきちんとしてもらえたと言えるような、そういう運用をぜひ行っていただくように、御指導のほどよろしくお願いしたいと思います。
 三十分、いろいろ質問してまいりました。交通事故の被害者を中心に質問してまいりましたけれども、犯罪そのものの被害者の人権、これがどうもおろそかになっているんではないかということが、今大変いろいろなところで議論をされております。何といっても被害者ですから、その被害者の人たちが、自分たちが完全に無視をされる、そういうような形で事件のその後の推移が進んでいくようでは、これは法治国家としてもまた非常にゆゆしきことだろうと思いますので、ぜひ、被害者の人権を考える、それがいろいろな制度の中に組み込まれていくように、大臣の方でも御努力をお願いいたしまして、私の質問を終わります。ありがとうございました。